オフィスビルの図面を開くと、1階のすみに「MDF」、各階の小部屋に「IDF」と書かれた四角があります。ネットワークの世界の言葉のようで、建築設備の図面にも当たり前に登場するこの2つ。名前は似ていますが、担う役割はきれいに分かれています。
今回はアッシュくんが、電気にくわしいのりめぇる先生に、MDFとIDFの違いを教わります。理解の鍵は、意外にも「LANケーブルは100メートルまで」という一本の制約。この壁の存在が、建物の中に配線室が点々と置かれている理由そのものなのです。
MDFは玄関、IDFは各階の配達所
のりめぇる先生、図面のMDFとIDFって何のこと? どっちも配線の部屋みたいだけど、名前が似すぎててこんがらがるよ。
MDFは主配線盤、IDFは中間配線盤と訳される。宅配便にたとえると分かりやすいよ。MDFは建物の玄関にある集配センター、IDFは各階に置かれた配達所だ。
通信事業者の回線が建物に入ってくる、いちばん最初の一点がMDF。ここが建物の通信の玄関口で、原則として建物に1か所だ。そこから幹線ケーブルが各階へ伸びて、階ごとのIDFに届く。IDFはその階の担当として、受け取った回線を会議室や各デスクの情報コンセントへ細かく配っていく。
この親子構造、実は電気とまったく同じなんだ。受変電設備が電気の玄関で、各階の分電盤が配達所。通信も電気も「1か所で受け取って、階ごとに配り直す」という同じ骨格でできているんだよ。
MDFが集配センターで、IDFが各階の配達所! 電気の分電盤と同じ考え方なら、もう忘れなさそうだよ。
| MDF(主配線盤) | IDF(中間配線盤) | |
|---|---|---|
| 役割 | 建物の通信の玄関口 | 各階での分配拠点 |
| 数 | 原則1か所 | 各階・各エリアに1か所以上 |
| 置かれる場所 | 1階や地下の電気室・MDF室 | 各階のEPS(電気用シャフト)や小部屋 |
| つながる先 | 通信事業者の回線とIDF | MDFと各室の情報コンセント |
| 電気にたとえると | 受変電設備(キュービクル) | 分電盤 |
電気側の親子関係は幹線と分岐回路とは入門で、こうしたつながりを1枚で示す図面の読み方は系統図とはで解説しています。
IDFが階ごとに必要な理由は「100mの壁」
でも、MDFから直接ぜんぶのデスクにケーブルを引けば、IDFはいらないんじゃないの?
そこがいちばんおもしろいところ。オフィスで使うLANケーブル、つまり銅線のツイストペアケーブルには、規格上「1本の区間はおよそ100メートルまで」という決まりがあるんだ。それを超えると信号が弱くなったりノイズに負けたりして、通信の品質が保証できない。
10階建てのビルで、1階のMDFから10階の奥のデスクまで直接引いたらどうなる? 縦の移動だけで数十メートル、そこから水平に引き回せば100メートルは簡単に超えてしまう。だから各階にIDFを置いて、そこから先を100メートル以内に収める。IDFという中継所は、この距離の壁を破らないために生まれた必然の設備なんだよ。
ちなみにMDFからIDFまでの幹線には、距離に強い光ファイバーを使うことが多い。光は長い距離を高速で運べるから、縦の長い移動を任せるのに向いている。長距離は光、末端は銅線。この役割分担も、距離の壁から導かれた設計なんだ。
アッシュくんメモ:「LANケーブルは100mまで」は覚えておくと便利! 会議室に長いケーブルを延々とつないでいくと、ある長さから急に不安定になる。それは機器の故障じゃなくて、規格の壁を超えたサインかもしれないんだ。
MDF・IDFの中には何が入っている?
扉を開けると、たいていは金属のラックに機器が段々に収まっています。代表的な中身を挙げます。
- 端子盤・パッチパネル:ケーブルの行き先を整理して並べる中継の板。ここで「どのポートがどの部屋につながるか」が管理されます
- スイッチ(ネットワーク機器):受け取った通信を各ポートへ振り分ける装置。電気の分電盤でブレーカーが並ぶ位置に、こちらはスイッチが並びます
- 光成端箱:光ファイバーの終端処理を行う箱。建物に入ってきた光回線や、MDFとIDFを結ぶ光幹線の受け口です
- 電源設備:機器を動かすコンセントと、停電時に備える無停電電源装置(UPS)が置かれることもあります
通信設備そのものの全体像はLAN通信設備の基礎入門でくわしく解説しています。
設計で気をつけたい3つのポイント
- 縦にそろえる:各階のIDFは、できるだけ上下階で同じ位置に配置します。EPSという縦のシャフトを共有すれば、幹線をまっすぐ通せて配線が短く整います
- 広さと熱の余裕:スイッチやUPSは発熱します。ぎゅうぎゅうの盤に押し込むと熱がこもり、機器の寿命が縮みます。作業スペースと換気の確保は設計段階の宿題です
- 将来の増設を見込む:オフィスのレイアウト変更は必ず起きます。ラックの空きスペース、予備の配管、余裕のあるポート数を最初から用意しておくと、後年の工事が格段に楽になります
階段の横にある鍵のかかった小さな扉、あれがIDFだったのかも。いつも通り過ぎてたけど、あの中でフロア全体の通信が仕分けされてたんだね。
そう、通信も電気も水も、建物の中では同じ形をしているんだ。1か所で受け取って、階ごとに配り直して、末端へ届ける。この骨格が見えるようになると、初めて入ったビルでも「この扉の向こうに何があるか」が想像できるようになる。設備を学ぶ楽しさは、そこにあるんだよ。
まとめ:親がMDF、子がIDF、理由は距離
- MDFは主配線盤。建物に通信回線が入ってくる玄関口で、原則1か所
- IDFは中間配線盤。各階でMDFからの幹線を受け、各室の情報コンセントへ配る
- 電気にたとえると、MDFが受変電設備、IDFが分電盤。通信も電気も同じ親子構造
- IDFが階ごとに要るのは、LANケーブル(銅線)の区間がおよそ100mまでという規格の壁があるから
- 長距離のMDFとIDF間は光ファイバー、末端は銅線という役割分担が定番
- 設計では上下階でIDFの位置をそろえ、発熱と将来の増設に余裕を持たせることが大切
おさらいクイズ
のりめぇる先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
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MDFの役割は?
- 建物に通信回線が入ってくる玄関口(主配線盤)
- 各階で回線を各デスクへ配る中継所
- 電気を各階へ届ける盤
正解は玄関口。MDFは主配線盤で原則1か所です。各階で配るのがIDF(中間配線盤)の役目でした。
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各階にIDFを置く技術的な理由は?
- 停電に備えるため
- 階ごとに料金を分けるため
- LANケーブルの1区間がおよそ100mまでという規格の制約があるため
正解は距離の壁。銅線のLANケーブルは長すぎると品質を保証できないため、各階に中継のIDFを置いて末端までを100m以内に収めます。
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MDFとIDFを結ぶ幹線によく使われるのは?
- 電源用の太い電線
- 長距離に強い光ファイバー
- 同軸ケーブルのみ
正解は光ファイバー。縦方向の長い距離を高速で運ぶのに向いています。末端の各デスクへは銅線のLANケーブル、という役割分担が定番です。
よくある質問
小さな建物にもIDFは必要ですか?
必要ないことも多いです。2階建ての小規模な事務所のように、MDFからすべての情報コンセントまで100m以内に収まるなら、MDF1か所で足ります。IDFは「距離が足りないから置く」設備なので、建物の規模と形が決めてくれます。
マンションにもMDFはありますか?
あります。集合住宅では1階などにMDF室やMDF盤が設けられ、そこから各住戸へ通信の配線が分配されています。インターネットの契約や工事のときに「MDFでの作業が必要」と言われるのは、この共用の配線盤を触るためです。
MDF室に勝手に入ってはいけないのですか?
建物全体の通信をつかさどる重要設備なので、通常は施錠され、管理者の許可を得た者だけが入る運用です。1本のケーブルを抜くだけでフロア全体の通信が止まることもあります。工事や調査の際は、必ず管理者と手順を確認してから作業します。
IDFとサーバー室は同じものですか?
別物です。IDFは配線の中継拠点、サーバー室は業務システムのサーバーを置く部屋で、求められる電源容量や空調、セキュリティのレベルが大きく違います。ただし小規模なオフィスでは、1つの部屋が両方の役目を兼ねている場合もあります。
光ファイバーなら100mの制限はないのですか?
光は銅線よりはるかに長い距離を伝送できます。ただし種類(マルチモードやシングルモード)や通信速度によって限界距離は変わるため、無制限ではありません。「銅線は100mが目安、光はもっと長く運べる」という大枠で捉えておけば、設計の考え方は十分つかめます。
