オフィスや施設で当たり前のように使うインターネットや無線、監視カメラ。これらを支えているのが、建物の中に張りめぐらされたLAN・通信設備です。電気設備設計では「弱電」と呼ばれる分野で、電灯やコンセントとは別に計画します。
この記事では、LANケーブルのカテゴリと速度、光ファイバーとの使い分け、LANで電源も送るPoE、配線をまとめるMDFやIDFといった要素を、初めての方にも分かるように図解で解説します。通信設備の全体像をつかむ入門記事です。
LAN・通信設備(構内情報通信網)とは
LAN・通信設備とは、建物の中でパソコンや電話、無線アクセスポイント、監視カメラなどをネットワークでつなぐための配線設備です。正式には構内情報通信網とも呼ばれ、情報を運ぶ「通り道」を建物全体に用意する役割があります。
電気設備は、大きく電灯やコンセントなどの「強電」と、通信や防災など小さな電気を扱う「弱電」に分かれます。LAN・通信設備は弱電の代表格です。電気を使って機器を動かす強電に対し、弱電は主に情報や信号をやりとりします。近年は在宅勤務や無線化、カメラの増加で、通信設備の重要性がますます高まっています。
アッシュくんメモ:強電は「電気そのものを届ける水道管」、弱電は「情報を届く郵便網」みたいなもの。同じ建物の中でも、役割が違う2つの配線が通っているんだよ。
LANケーブルのカテゴリと速度
LANケーブル(メタルケーブル)には、性能ごとにカテゴリという規格があります。数字が大きいほど高速・広帯域で、新しく作る建物ではより高速な規格が選ばれます。代表的なものを整理します。
| カテゴリ | 最大の伝送速度 | 伝送帯域 | 主な位置づけ |
|---|---|---|---|
| Cat5e | 1ギガビット毎秒 | 100メガヘルツ | 長く標準だった規格 |
| Cat6 | 1ギガビット毎秒 | 250メガヘルツ | Cat5eより広帯域 |
| Cat6A | 10ギガビット毎秒 | 500メガヘルツ | 現在の新設で主流 |
メタルのLANケーブルには、性能を保てる距離の上限があり、水平配線では最大100メートルが目安です。これを超えると速度や品質が保証されないため、後述するように配線をまとめる部屋の位置を工夫して、この距離内に収めます。10ギガビット毎秒に対応するCat6Aは太く曲げにくいため、施工スペースにも配慮が必要です。
光ファイバーと銅線の使い分け
通信設備の配線には、これまで見たメタル(銅線)のLANケーブルと、光ファイバーの2種類があります。それぞれ得意分野が違い、役割を分けて使います。
- メタル(LANケーブル):各階の中で、機器や情報コンセントまでをつなぐ水平配線に向きます。安価で扱いやすい反面、距離と速度に限界があります。
- 光ファイバー:高速で長距離を送れ、ノイズにも強いのが特徴です。建物の引込みから各階をつなぐ幹線(バックボーン)や、長い距離を高速で結ぶ部分に使います。
イメージとしては、建物を貫く太い幹線を光ファイバーが担い、各階の中の細かな配線をLANケーブルが担う、という分担です。扱う情報量が増えるほど、光ファイバーの役割は大きくなります。
PoE(LANで給電)とは
PoEは、LANケーブル1本でデータ通信と電源供給を同時に行う技術です。通常、機器を動かすにはコンセントからの電源が必要ですが、PoEを使えばLANケーブルだけで電源もまかなえます。
これが役立つのは、コンセントを用意しにくい場所に置く機器です。天井の無線アクセスポイントや、壁や天井の監視カメラ、IP電話などが代表例で、電源配線を別に引かずにすむため、設置の自由度が上がります。給電できる電力は規格によって異なり、およそ15ワットから90ワット程度まで、対応する規格を選びます。
注意点もあります。細いケーブルに大きな電流を流すと発熱しやすく、多数のケーブルを束ねるとその熱がこもって通信の品質を落とすことがあります。PoEを多用する場合は、ケーブルの種類や束ね方、放熱にも気を配る必要があります。
配線をまとめる場所:MDF・IDF・EPS
建物内の通信配線は、機器から情報コンセント、そして配線をまとめる部屋へと集まっていきます。この配線をまとめる場所がMDFとIDF、そして配線を縦に通す空間がEPSです。
建物の引込み・親となる配線盤
(中間配線盤)
(中間配線盤)
パソコン・電話・カメラなど
- MDF(主配線盤):建物へ通信を引き込む親の配線盤で、通信設備の中心です。
- IDF(中間配線盤):各階などに置く中継の配線盤で、そのエリアの水平配線をまとめます。
- EPS(電気シャフト):配線を建物の上下に通すための縦の空間で、幹線はここを通って各階のIDFへ向かいます。
MDFから幹線がEPSを通って各階のIDFへ届き、IDFから水平配線が各部屋の情報コンセントへ伸びる、という階層になっています。水平配線を100メートル以内に収めるため、IDFはできるだけそのフロアの中心に配置するのが基本です。
無線LAN(Wi-Fi)との関係
「無線だから配線はいらない」と思われがちですが、無線LANも有線の通信設備の上に成り立っています。天井などに設ける無線アクセスポイントは、LANケーブルで各階のIDFにつながり、そこから建物のネットワークへ接続されます。電波を飛ばしているのはアクセスポイントまでで、その先は有線でつながっているわけです。
アクセスポイントの多くはPoEで給電されるため、電源を別に用意せずLANケーブル1本で設置できます。設計では、電波が届く範囲や同時に使う人数をもとに、アクセスポイントの数と位置を決め、それぞれまでのLAN配線を計画します。無線化が進むほど、実はその土台となる有線配線とPoEの計画が重要になる、という関係です。
設計での実務ポイント
LAN・通信設備の設計では、次のような点を検討します。
- 情報コンセントの数と位置:机の配置や無線アクセスポイント、カメラの位置に合わせて計画します。
- 配線距離の管理:水平配線が100メートルを超えないよう、IDFの位置と数を決めます。
- 幹線の方式:建物の規模や必要な速度に応じて、光ファイバーの本数や容量を決めます。
- MDF・IDFの環境:機器は発熱するため、必要に応じて電源や空調、換気を確保します。
- 将来への備え:機器の増設や規格の更新に対応できるよう、余分の配管や配線スペース(空配管など)を見込みます。
- 他の弱電設備との調整:電話・防犯・放送・インターホンなど、他の弱電設備と配線ルートや盤を調整します。
通信設備は、いちど作ると後から大きく変えにくい部分です。だからこそ、将来の増設や技術の更新を見込んで、余裕を持って計画することが大切になります。
まとめ:LAN・通信設備の基礎
- LAN・通信設備は建物内の機器をつなぐ弱電の配線設備で、構内情報通信網とも呼ぶ。
- LANケーブルはカテゴリで性能が違い、新設ではCat6A(10ギガビット毎秒)が主流。
- メタルは各階の水平配線、光ファイバーは幹線や長距離と、役割を分けて使う。
- PoEはLANケーブルでデータと電源を同時に送り、カメラや無線アクセスポイントに便利。
- 配線はMDF(親)とIDF(各階)に集まり、EPS(縦シャフト)を通ってつながる。
- 水平配線は最大100メートル、将来の増設を見込んだ余裕ある計画が重要。
おさらいクイズ
この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
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新しく作る建物のLANケーブルで主流のカテゴリは?
- Cat5e
- Cat6A
- 規格は関係ない
正解はCat6A。10ギガビット毎秒に対応し、将来の高速化に備えられます。
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メタルのLANケーブルの水平配線の距離の上限の目安は?
- 100メートル
- 500メートル
- 1キロメートル
正解は100メートル。超えると速度や通信品質が保証されなくなります。
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建物に通信を引き込む親の配線盤はどれ?
- IDF
- 分電盤
- MDF
正解はMDF。IDFは各階などに置く中継の配線盤です。
よくある質問
LANケーブルはどのカテゴリを選べばよいですか
新しく作る建物では、10ギガビット毎秒に対応するCat6Aが主流です。将来の高速化に備えられるためです。既存の更新や小規模な用途ではCat5eやCat6が使われることもありますが、長く使う設備ほど余裕のある規格が安心です。
PoEを使えばコンセントは不要になりますか
PoEで動かせる機器については、LANケーブルから電源をまかなえるためコンセントを省けます。ただし給電できる電力には規格ごとの上限があり、消費電力の大きい機器は通常のコンセントが必要です。カメラや無線アクセスポイントなど、比較的小さな電力の機器で活躍します。
水平配線が100メートルを超えるとどうなりますか
メタルのLANケーブルは100メートルを超えると、速度や通信品質が保証されなくなります。そのため、各階のIDFをフロアの中心近くに置いて、そこから各コンセントまでの距離が100メートル以内に収まるように設計します。
MDFとIDFの違いは何ですか
MDFは建物に通信を引き込む親の配線盤で、通信設備の中心です。IDFは各階などに置く中継の配線盤で、そのエリアの水平配線をまとめます。MDFから幹線でつながったIDFが、各フロアの配線を受け持つ関係です。
