インバータやパソコン、LED照明があふれる現代の建物では、「高調波」という電気のノイズが問題になることがあります。目に見えないため見落とされがちですが、放っておくと機器の過熱や誤動作、コンデンサの焼損などのトラブルにつながります。

この記事では、高調波とは何か、なぜ発生するのか、どんな影響があり、どう対策するのかを、初めての方にも分かるように図解で解説します。電気設備設計で押さえておきたい、電気の品質に関わる基礎知識です。

高調波とは

高調波とは、電源の基本となる周波数(基本波、日本では50ヘルツまたは60ヘルツ)の整数倍の周波数を持つ電流や電圧の成分のことです。基本波の3倍を第3次高調波、5倍を第5次高調波と呼び、これらが基本波に重なると、本来はきれいな正弦波であるはずの波形がゆがみます。

電気は本来、なめらかな波の形(正弦波)で供給されます。ところが高調波が混じると波形がギザギザにゆがみ、電気の品質が下がります。この波形のゆがみが、さまざまな機器のトラブルの原因になります。

高調波の中でも、実際によく問題になるのは第3次・第5次・第7次といった低い次数の成分です。とくに第3次高調波は、三相4線式の配線では各相の分が中性線で足し合わさる性質があり、中性線に大きな電流が流れる原因になります。どの次数がどれだけ含まれるかは発生源の機器によって異なり、全体としてどれくらいゆがんでいるかは、ひずみ率という指標で表します。

アッシュくんメモ:高調波は電気の波に乗ってくる「ノイズ」みたいなもの。きれいな波にギザギザが混ざると、電気を使う機器がびっくりして調子を崩しちゃうんだ。

高調波が発生する理由

高調波の主な発生源は、非線形負荷と呼ばれる機器です。非線形負荷とは、電源から見て正弦波どおりではない、ゆがんだ電流が流れる機器のことをいいます。

代表的な発生源には、次のようなものがあります。いずれも現代の建物に欠かせない機器ばかりです。

  • インバータ(空調・ポンプ・ファンなどの回転数制御に使う)
  • 整流器やコンバータ回路(交流を直流に変える装置)
  • スイッチング電源(パソコンやサーバー、各種電子機器の電源)
  • LED照明や調光装置
きれいな正弦波
で供給
→ 非線形負荷(インバータ等)を通ると →
ゆがんだ電流
=高調波を含む

これらの機器は、電気を効率よく使ったり細かく制御したりするために、電流を必要なときだけ取り込むような働きをします。その結果、電流の波形がゆがみ、高調波が生まれます。省エネや制御に役立つ便利な機器が、同時に高調波の発生源にもなっている、というわけです。

高調波による影響(障害)

高調波が電気設備に流れると、さまざまな障害を引き起こします。主な影響は次のとおりです。

影響を受ける部分起こりうる障害
進相コンデンサ過電流で発熱・膨張し、最悪の場合は焼損や破裂
変圧器過熱による損失の増加・寿命の低下
中性線(三相4線式)第3次高調波が集中して過電流・発熱
電子機器・制御機器誤動作や不安定な動作
配線・電圧波形電圧のゆがみが広がり、他の機器へ波及

とくに注意が必要なのが進相コンデンサです。力率改善のために設けたコンデンサに高調波が流れ込むと、過電流で発熱し、焼損や破裂に至ることがあります。また、パソコンなどの単相の機器が多い建物では、第3次高調波が中性線に集中し、想定より大きな電流が流れて過熱する問題もあります。高調波は発生源だけでなく、電圧のゆがみを通じて周囲の機器にも影響を広げる点が厄介です。

高調波の対策

高調波への対策は、大きく「発生を抑える」「流出を止める」の考え方に分かれます。代表的な方法は次のとおりです。

対策内容
リアクトルの設置進相コンデンサに直列リアクトルを付け、高調波の流入を抑える
フィルタの設置受動フィルタやアクティブフィルタで高調波を吸収・打ち消す
機器側の対策高調波の少ない方式のインバータや電源を選ぶ
系統の工夫負荷を分散し、変圧器や幹線の容量に余裕を持たせる

リアクトルは高調波に対して電気を通しにくく(高インピーダンス)、フィルタは通しやすく(低インピーダンス)働きます。この性質を利用し、負荷から出た高調波の多くをフィルタへ導いて、変圧器や電源側へ流れる量を減らします。とくに力率改善用の進相コンデンサには、高調波による焼損を防ぐため、直列リアクトルを組み合わせるのが基本とされています。

高調波抑制ガイドラインと設計

高調波の対策は、「高調波抑制対策ガイドライン」に沿って検討します。これは、需要家(建物側)から電力系統へ流れ出る高調波電流を、一定の範囲に抑えることを目的とした指針です。自分の建物の高調波が、送電線や周囲の需要家に迷惑をかけないようにする、という考え方です。

高調波は、あとから対策すると大がかりになりがちです。そのため、インバータや大型の電子機器を多く使う計画では、機器を選ぶ設計の段階から、高調波の発生量と対策の要否を余裕をもって検討することが大切です。具体的な限度値や計算方法はガイドラインに定められているため、設計では最新の内容を確認して進めます。

高調波と力率の違い

高調波と力率は、どちらも「電気を効率よく使えているか」に関わるため混同されがちですが、意味は別ものです。力率は電圧と電流の位相のずれ(タイミングのずれ)を表すのに対し、高調波は電流の波形そのもののゆがみを表します。

従来の力率は、モーターなどによる位相のずれを指し、進相コンデンサで改善するのが基本でした。一方、インバータやスイッチング電源が増えた現代では、波形のゆがみ、つまり高調波による見かけ上の効率低下も無視できなくなっています。位相のずれ(力率)と波形のゆがみ(高調波)は、原因も対策も異なるため、分けて考える必要があります。そして先に述べたとおり、力率改善のコンデンサはむしろ高調波を引き込みやすいため、両者をあわせて計画することが大切です。片方だけを見て対策すると、もう片方の問題を見落としたり、かえって悪化させたりすることがあるので注意します。

設計での実務ポイント

高調波を踏まえた電気設備設計では、次のような点に気を配ります。

  • 発生源の把握:インバータ機器や大型電子機器がどれだけあるかを把握し、高調波の発生量を見込みます。
  • 進相コンデンサの保護:力率改善用のコンデンサには、原則として直列リアクトルを組み合わせます。
  • 容量の余裕:変圧器や中性線に高調波による負担がかかるため、容量に余裕を見込みます。
  • ガイドラインへの適合:系統へ流れ出る高調波が指針の範囲に収まるかを確認し、必要ならフィルタを計画します。
  • 調査と測定:既存の建物では、実際に高調波を測定して現状を確認したうえで対策を検討します。

高調波は、力率や電圧降下とならぶ「電気の品質」に関わるテーマです。目に見えないぶん見落とされがちですが、便利な機器が増えるほど無視できなくなります。発生源を理解し、早めに対策を織り込むことが、安定した電気設備につながります。

まとめ:高調波の基礎

  • 高調波は基本波の整数倍の周波数成分で、電気の波形をゆがませる。
  • 主な発生源はインバータや整流器、スイッチング電源、LED照明などの非線形負荷。
  • 進相コンデンサの焼損、変圧器の過熱、中性線の過電流、機器の誤動作などを引き起こす。
  • 対策はリアクトルやフィルタの設置、機器側の対策、系統の工夫が基本。
  • 進相コンデンサには直列リアクトルを組み合わせて保護するのが基本。
  • 高調波抑制対策ガイドラインに沿い、設計の段階から余裕をもって検討する。

おさらいクイズ

この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。

  1. 高調波の主な発生源はどれ?

    • 白熱電球
    • インバータや整流器・スイッチング電源・LED照明などの非線形負荷
    • 乾電池

    正解は非線形負荷。電流の波形がゆがみ、高調波が発生します。

  2. 進相コンデンサに直列リアクトルを付ける理由は?

    • 高調波の流入を抑え、過電流による発熱や焼損を防ぐ
    • 電圧を上げる
    • 見た目をよくする

    正解は1番目。コンデンサは高調波を引き込みやすいためです。

  3. 高調波の対策はいつ検討するのが望ましい?

    • 故障してから
    • 10年後
    • 設計の初期段階から

    正解は初期段階から。あとから対策すると大がかりになりがちです。

よくある質問

高調波は何が原因で発生しますか

インバータや整流器、スイッチング電源、LED照明などの非線形負荷が主な原因です。これらは電流を必要なときだけ取り込むように働くため、電流の波形がゆがみ、基本波の整数倍の周波数である高調波が発生します。

高調波を放置するとどうなりますか

進相コンデンサの発熱や焼損、変圧器の過熱、中性線の過電流、電子機器の誤動作などを引き起こすことがあります。さらに電圧波形のゆがみを通じて、周囲の機器にも影響が広がるおそれがあります。

進相コンデンサに直列リアクトルを付けるのはなぜですか

コンデンサへの高調波の流入を抑え、過電流による発熱や焼損を防ぐためです。コンデンサは高調波を引き込みやすいため、直列にリアクトルを入れて高調波が流れ込みにくくするのが基本的な対策です。

高調波の対策はいつ検討すべきですか

設計の初期段階から検討するのが望ましいです。あとから対策すると大がかりになりがちなため、インバータや大型電子機器を多く使う計画では、機器を選ぶ段階で発生量と対策の要否を見込んでおくと安心です。