マンションやビルの外側に、鉄骨の階段が張り付いているのを見かけます。雨ざらしで、ふだんは誰も使っていない。なぜわざわざ建物の外に階段を作るのでしょうか。中に作ったほうが濡れないし、傷みも少ないはずです。
その答えは、火災のときに何がいちばん人の命を奪うかを知ると見えてきます。今回はアッシュくんが、建物の設計にくわしいさと吉先生に、避難のための階段の考え方を教わります。
火災でこわいのは炎より煙
さと吉先生、非常階段ってどうして外に付いてるの? 雨で錆びちゃいそうなのに。
理由は煙なんだ。火災で人が逃げられなくなる原因の多くは、炎そのものより煙にある。視界を奪われて出口が分からなくなるし、有毒な成分を含む煙を吸えば動けなくなる。
そして煙には性質がある。熱いから軽く、上へ上へと昇っていく。建物の中で、上へまっすぐつながっている空間はどこだと思う? 階段だ。階段室は、煙にとって理想的な通り道なんだよ。
だからもし何の対策もない屋内階段しかなければ、火災の煙がその階段を駆け上がり、逃げようとする人が煙の中を進むことになる。これでは避難路が煙の道になってしまう。
屋外階段なら、この心配がない。煙が入ってきても、周りが開いているからすぐに拡散していく。こもらないんだ。だから避難のための階段として、屋外に設けるという選択肢が生きてくるんだよ。
階段が煙の通り道になっちゃうのか…。外にあるのは、煙をためないための工夫だったんだね。
煙をためないという考え方は、建物のさまざまな場所に組み込まれています。煙を屋外へ出す設備は排煙設備の基礎入門、高層建築で縦の気流が生まれる現象は高層ビルの窓はなぜ開かないで解説しています。
屋内の階段は、守りを重ねて避難路にする
とはいえ、すべての建物で階段を外に出せるわけではありません。敷地の制約もありますし、寒冷地や高層階では屋外階段が現実的でない場合もあります。そこで屋内の階段は、煙から守る工夫を重ねたうえで避難路とされます。
- 防火戸で仕切る:階段室の入口に、火と煙を止める扉を設けます。ふだん開いている扉が、火災時に自動で閉まる仕組みのものもあります
- 付室を設ける:階段室の手前にもう一つ小部屋を設け、二重の扉で煙の侵入を防ぐ形式があります
- 煙を出す・押し返す:付室や階段室に排煙の設備を設けたり、空気を送り込んで煙が入りにくい状態をつくったりします
- 階段室を燃えない材料で囲む:階段そのものが火に耐えられるように作られます
どの形式が必要かは、建物の規模、階数、用途によって法令で定められています。だから同じマンションでも、規模によって階段の作りがまるで違うのです。
アッシュくんメモ:外階段は「煙をためない」作戦、屋内階段は「煙を入れない」作戦。目的地は同じでも、守り方が正反対なんだね!
2方向に逃げられるようにする
マンションのベランダに、隣との間に薄い板があるよね。あれも避難に関係あるの?
大いに関係あるよ。あれは隔て板といって、緊急時には蹴破って隣のベランダへ移れるようになっている。ベランダの床にあるハッチも同じで、開けると下の階へ降りるはしごが出てくる。
なぜこんな仕掛けがあるかというと、避難の基本は「逃げる方向を2つ以上確保する」ことだからだ。玄関側の廊下が煙で使えなくなったら、ベランダ側から逃げる。片方がふさがっても、もう片方が残っている。
だから隔て板の前に物を置いたり、避難ハッチの上に荷物を積んだりするのは危険なんだ。自分の家の避難路をふさぐだけでなく、隣の人の逃げ道までふさぐことになる。あの薄い板は、隣人同士で共有している非常口なんだよ。
避難のときに階段を使う理由
火災時にエレベーターを使わないよう案内されるのは、次のような危険があるためです。
- 停電で停止する:かごの中に閉じ込められる恐れがあります
- 昇降路が煙の通り道になる:縦につながった空間なので、階段と同じく煙が上がりやすい構造です
- 火災階で扉が開く可能性:制御によっては、逃げたい階とは違う階で止まることがあります
そのため多くのエレベーターには、火災を感知すると避難階まで下りて扉を開き、運転を休止する機能が備わっています。エレベーターの安全のしくみはエレベーター設備の基礎入門で解説しています。避難の道しるべとなる緑の表示は非常口マークはなぜ緑をどうぞ。
屋外階段にも弱点はある
煙に強い屋外階段ですが、いいことばかりではありません。設計では次の点への配慮が必要になります。
- 錆と劣化:雨風にさらされるため、鉄部の塗装の維持や定期的な点検が欠かせません
- 凍結と滑り:寒冷地では、階段の表面が凍って危険になります。滑りにくい仕上げや、屋根を掛ける工夫が必要です
- 防犯:外部から建物内へ入る経路になりうるため、施錠の方法を検討します。ただし内側からは常に逃げられる形にしておく必要があります
- 建物の外観:意匠との調和も課題です。外階段を建物のデザインとして取り込む設計も見られます
とくに劣化は見落とされがちです。ふだん使わない階段ほど、傷んでいることに気づきにくくなります。いざというときに使えなければ、避難路としての意味がなくなってしまいます。
今度うちの建物の避難経路、実際に歩いてみようと思う。どこに階段があって、どこへ出るのか。知ってるのと知らないのじゃ全然違うもんね。
それが今日いちばんの収穫だよ。建物にどれだけ立派な避難設備があっても、使う人が知らなければ本番で活かせない。設計者は逃げ道を用意することはできるけれど、歩いておくことはできないからね。晴れた日に一度、階段を下りてみる。それだけで、いざというときの落ち着きがまったく変わるはずだよ。
まとめ:煙を制するのが避難の設計
- 屋外に非常階段を設けるのは、煙がこもらず自然に拡散するから
- 火災でこわいのは炎より煙。階段は縦につながるため、煙の通り道になりやすい
- 屋内階段は、防火戸・付室・排煙などの守りを重ねて避難路として使えるようにする
- 避難の基本は逃げる方向を2つ以上確保すること。ベランダの隔て板や避難ハッチもその一部
- 隔て板の前やハッチの上に物を置くのは、自分と隣人の避難路をふさぐ行為
- 屋外階段は錆や凍結、防犯という弱点があり、定期的な点検と手入れが欠かせない
おさらいクイズ
さと吉先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
-
非常階段を屋外に設ける主な理由は?
- 建物の中の面積を広く使えるから
- 煙がこもらず、自然に拡散するから
- 工事費が安いから
正解は煙対策。階段は縦につながるため煙の通り道になりやすく、屋外なら煙がたまりません。避難路を煙から守る設計です。
-
ベランダの隔て板の役割は?
- 緊急時に蹴破って隣のベランダへ移るため
- 洗濯物を隠すためだけの目隠し
- 建物を補強するため
正解は避難経路。玄関側が使えないとき、ベランダ側から逃げるための仕掛けです。前に物を置くと、隣人の逃げ道までふさぐことになります。
-
火災時にエレベーターを使わない理由に含まれないのは?
- 停電で閉じ込められる恐れがある
- 昇降路が煙の通り道になる
- 定員が決まっているから
正解は3番。定員は日常の話です。停電による閉じ込めと、縦の空間を煙が上がることが、避難に使わない理由です。
よくある質問
古いアパートの外階段も非常階段ですか?
すべてがそうとは限りません。共用廊下から各戸へ入るための日常の階段が外部に設けられているだけの場合もあります。避難のための階段として法令上の位置づけがあるかどうかは、建物の規模や構造によって異なります。いずれにせよ、通行を妨げないことが大切です。
非常階段に物を置いてはいけないのですか?
置いてはいけません。避難経路をふさぐ行為であり、消防の指導や管理規約でも禁止されているのが一般的です。自転車、傘立て、段ボールなど、ちょっとした物でも暗闇の中では大きな障害になります。共用部は空けておくのが原則です。
普段から非常階段を使ってもいいですか?
建物の運用によります。日常の通行を認めている建物もあれば、施錠して緊急時のみ開放する建物もあります。大切なのは、自分が使う建物の避難経路がどこにあり、どうやって出るのかを一度確認しておくことです。実際に歩いてみると、暗闇でも動けるようになります。
マンションの避難ハッチはどう使うのですか?
ふたを開けると、はしごが下の階のベランダへ降りる仕組みになっています。使い方は建物の防災訓練で説明されることが多いので、参加して一度見ておくと安心です。ハッチの上や下に物を置かないことも重要です。上下階でつながっているため、下の階の住民の協力も必要になります。
屋外階段が錆びているように見えます。どうすればいいですか?
管理者へ伝えてください。鉄部の塗装が剥がれて錆が進むと、強度に影響することがあります。定期的な点検と塗り替えが行われるのが通常ですが、住民からの指摘が発見のきっかけになることもあります。ふだん使わない場所こそ、気づいた人が声を上げる価値があります。
