建物の中には、目に見えないところに大量の電線やケーブルが張りめぐらされています。照明やコンセント、エアコン、そして大きな動力機器まで、すべては電線を通って電気が届いています。電気設備設計では、この配線材料をどう選ぶかも大切な仕事のひとつです。
この記事では、電気設備の基礎として、電線とケーブルの基本をやさしく整理します。両者の違い、代表的な種類、導体の単線とより線、太さと許容電流、そして選び方まで、初心者にも分かるように順番に解説します。
電線とケーブルの違い
まず、よく混同される電線とケーブルの違いを整理します。日常ではひとまとめに「電線」と呼びがちですが、電気の世界では区別があります。
- 電線:電気を通す導体(銅など)を、絶縁物で覆ったものです。もっともシンプルな形です。
- ケーブル:絶縁した電線を数本束ね、その上からシースと呼ばれる保護被覆でさらに覆ったものです。丈夫で、そのまま配線しやすいのが特長です。
大まかにいえば、電線は保護被覆がないぶん、金属の管(電線管)の中を通して使うのが基本です。一方ケーブルは、シースで守られているので、そのまま壁の中や天井裏に配線できます。この違いが、使う場所や工事のしかたに関わってきます。工場や露出配管の多い建物では電線管+電線、住宅では施工が早いケーブル、というように、建物の性格でも選び方が変わってきます。
代表的な電線・ケーブルの種類
電線・ケーブルには、記号で表される多くの種類があります。建物でよく使われる代表的なものを押さえておきましょう。
| 記号 | 名前・特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| IV | 屋内配線用の絶縁電線。電線管に通して使う | 電線管内の配線 |
| VVF | 平形のビニルケーブル。低圧屋内でもっとも普及 | 照明・コンセント回路 |
| CV | 架橋ポリエチレン絶縁。許容温度が高く電流容量が大きい | 幹線・動力 |
| CVT | 単心のCVを3本より合わせたもの。放熱性がよい | 大きな幹線 |
住宅でおなじみの平たいケーブルがVVFで、照明やコンセントの回路に広く使われます。一方、建物全体へ電気を送る太い幹線や、大きな機器を動かす動力には、電流容量の大きいCVやCVTが使われます。以前の幹線の記事で触れた「太い大元の配線」が、まさにこのCV系にあたります。
導体の単線とより線、太さの表し方
電線の中で実際に電気を通すのが、銅などでできた導体です。この導体には、単線とより線の2種類があります。
- 単線:1本の太い線でできた導体です。住宅のVVFケーブルには、直径1.6mmや2.0mmといった単線がよく使われます。
- より線:細い線を何本もより合わせた導体です。太い配線でも曲げやすく、大きな電流を流す幹線などに使われます。
太さの表し方も、この2つで違います。単線は直径(1.6mm、2.0mm、2.6mmなど)で、より線は断面積(sq=スケア、単位はmm2)で表します。「5.5sq」「38sq」のように呼ばれる数字が、より線の太さです。数字が大きいほど太く、たくさんの電流を流せます。
アッシュくんメモ:現場で「1.6(いってんろく)」「5.5スケ」なんて呼ぶのを聞くよね。前者は単線の直径mm、後者はより線の断面積sq。同じ"太さ"でも表し方が2通りあるから、最初はちょっと戸惑うところなんだ。
許容電流という大切な考え方
電線を選ぶうえで、もっとも大切なのが許容電流です。許容電流とは、その電線に安全に流し続けられる電流の上限のことです。電線は電気を流すと発熱し、太いほど熱に余裕があり、細いほど熱くなりやすいという性質があります。
もし許容電流を超える電流を流し続けると、電線が過熱し、被覆が溶けたり、最悪の場合は火災につながったりします。だからこそ、流したい電流の大きさに見合った太さの電線を選ぶことが、安全の要になります。細い電線に無理をさせない、というのが鉄則です。ブレーカーは、この許容電流を超える前に回路を切って電線を守る役割も担っています。
アッシュくんメモ:「細い電線で足りるなら安くていい」と思いがちだけど、それは危険なんだ。電線は流す電流に対して太さが決まっている。細すぎる電線に大きな電流を流すのは、細いストローで大量の水を無理やり流すようなもので、無理がたたって熱を持つんだよ。
電線・ケーブルの選び方の基本
実際に配線材料を選ぶときは、いくつかの視点を組み合わせて決めます。設計では、これらを総合して最適な種類と太さを選定します。
- 流す電流の大きさ:まず、その回路にどれだけの電流が流れるかを見積もり、許容電流がそれを上回る太さを選びます。
- 用途と場所:照明・コンセントなら扱いやすいVVF、幹線や動力なら電流容量の大きいCV系、というように用途で使い分けます。電線管に通すのか、そのまま配線するのかでも変わります。
- 敷設の条件:同じ電線でも、束ねて配線したり、周囲の温度が高かったりすると、熱がこもって許容電流が下がります。こうした条件も見込んで、余裕を持った太さを選びます。
- 電圧降下:配線が長いと、途中で電圧が下がってしまいます。距離が長い場合は、電圧降下を抑えるために太めの電線を選ぶこともあります。
電線・ケーブルは、建物の血管のような存在です。目立たない部材ですが、選び方を誤ると効かない・危ないにつながります。適切な種類と太さを選ぶことが、安全で快適な電気設備の土台になります。
配線まわりで知っておきたいこと
電線・ケーブルは、選ぶだけでなく、通し方や扱い方にもルールがあります。設計や現場で押さえておきたいポイントを紹介します。
- 色分けのルール:電線は役割ごとに被覆の色が決められています。たとえば接地線(アース)は緑や緑と黄のしま模様、と決まっており、誤接続を防ぎます。以前のアースの記事ともつながる部分です。
- 強電と弱電を分ける:照明やコンセントの電気(強電)と、通信やLANなどの弱電の配線は、近づけすぎるとノイズの原因になります。ルートを分けて計画します。
- 曲げすぎない:ケーブルには、無理なく曲げられる最小の半径があります。きつく折り曲げると内部を傷め、性能低下や断線の原因になります。
- 将来の余裕:電線管には、あとから配線を追加できるよう余裕を持たせておくと、増設や改修が楽になります。
また、電線・ケーブルの被覆も、長い年月のうちには劣化します。とくに熱や紫外線、湿気の影響を受けやすい場所では、定期的な点検で傷みや変色がないかを確認することが、安全を保つうえで大切です。維持管理の記事で触れた予防保全の考え方は、配線にもあてはまります。
まとめ:電線とケーブルの基礎を押さえる
- 電線は導体を絶縁物で覆ったもの、ケーブルはそれを束ねてシースで保護したもの。
- 代表はIV(電線管用)・VVF(照明コンセント)・CV/CVT(幹線・動力)。用途で使い分ける。
- 導体には単線(直径mm)とより線(断面積sq)があり、太いほど電流を流せる。
- 許容電流は安全に流せる電流の上限。超えると過熱・火災の危険。太さは電流に合わせて選ぶ。
- 選び方は電流・用途と場所・敷設条件・電圧降下を総合して決める。
- 色分け・強弱電の分離・曲げ半径など、配線の扱い方にもルールがある。被覆の劣化は点検で確認。
おさらいクイズ
この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
-
電線とケーブルを見分ける目安は?
- 長さ
- いちばん外側の保護被覆(シース)があるか
- 色
正解はシースの有無。絶縁電線を束ねてシースで覆ったものがケーブルです。
-
住宅の低圧の照明・コンセント回路で最も広く使われるのは?
- VVF
- CV
- 光ファイバー
正解はVVF。CVは許容温度が高く、幹線や大きな機器の動力に使われます。
-
流す電流に対して細すぎる電線を使うと?
- 省エネになる
- まったく問題ない
- 許容電流を超えると過熱し火災の原因になる
正解は3番目。回路に流れる電流に見合った太さを選ぶ必要があります。
よくある質問
電線とケーブルはどう見分けるのですか
いちばん外側の保護被覆(シース)があるかどうかが目安です。導体を絶縁物で覆っただけのものが電線、絶縁電線を束ねてさらにシースで覆ったものがケーブルです。住宅の平たい配線材(VVF)はケーブルにあたります。
VVFとCVはどう使い分けるのですか
VVFは低圧の照明・コンセント回路で最も広く使われ、扱いやすいのが利点です。CVは許容温度が高く電流容量が大きいため、建物全体へ送る幹線や、大きな機器を動かす動力に使われます。流す電流の大きさで選び分けます。
「sq(スケア)」とは何ですか
より線の太さを表す、導体の断面積の単位です。mm2(平方ミリメートル)のことで、5.5sqなら断面積が5.5mm2という意味です。数字が大きいほど太く、より多くの電流を流せます。
細い電線でも問題なく使えますか
流す電流に対して細すぎる電線は危険です。許容電流を超えると過熱し、火災の原因になります。必ず、その回路に流れる電流に見合った太さを選ぶ必要があります。安さだけで細い電線を選ぶことは避けます。
