「電気設備設計の仕事に、これからも将来性はあるの?」キャリアを考えるとき、多くの人が気にするポイントです。結論からいえば、電気設備設計の需要は、これから構造的に伸びていくと考えられます。データセンター、EV、再生可能エネルギー、省エネ基準の義務化。社会の大きな変化のほとんどが、“電気”の設計を必要とするからです。本記事では、電気設備設計の将来性を「需要が伸びる5つの理由」と「人材不足の現状」から整理し、これから活躍できる設計者の姿までを見ていきます。
結論:電気設備設計の需要は「構造的に」伸びていく
電気設備設計の将来性が高いといえるのは、一時的な景気の波ではなく、社会インフラそのものの転換が需要を押し上げているからです。脱炭素(GX)、デジタル化(DX)、そして電化(電気で動かす仕組みへの置き換え)。いま社会で進む大きな流れは、いずれも電気設備の設計を伴います。つまり、時代が進むほど“電気を設計できる人”が必要になる構造になっているのです。
以下では、その需要を生み出している具体的な5つの動きを見ていきます。
電気設備設計の需要が伸びる5つの理由
① データセンター・生成AIによる電力需要の急増
生成AIの普及で、データセンターの電力需要が世界的に急増しています。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のデータセンターの消費電力量は2022年の約460TWhから、2026年には約1,000TWh(日本全体の年間消費電力量に匹敵する規模)に達する可能性があるとされています。生成AIは、1回の処理で一般的な検索の約10倍の電力を消費するとの試算もあります。
国内でも、データセンターの電力需要は2022年の約150億kWhから2030年には約250億kWh規模へ拡大すると予測され、海外の巨大IT企業もAI関連投資を計画しています。データセンターは、受変電・幹線・非常用電源・空調との連携など、高度な電気設備のかたまりです。その一つひとつに設計が欠かせません。
② EVの普及と充電インフラの拡大
電気自動車(EV)の普及に合わせ、充電インフラの整備が加速しています。政府は2030年に向けた充電器の設置目標を大幅に引き上げ(従来の15万口から倍増)、東京都は全国で初めて、新築建築物へのEV充電設備の設置を義務づける条例を2025年4月に施行しました。
充電設備を建物に組み込むには、受電容量の見直しや幹線・分電盤の設計が必要です。EVの普及は、そのまま建物側の電気設備設計の新しい標準業務を生み出しています。
③ 再生可能エネルギー・蓄電池の拡大
2025年2月に策定された第7次エネルギー基本計画では、2040年度の再生可能エネルギー比率を約4〜5割と、2022年度(約21.8%)の約2倍に見込んでいます。太陽光発電や蓄電池、自家消費、系統との連系。これらはいずれも電気設備設計の新しい領域です。建物のエネルギーを“つくって・ためて・かしこく使う”時代に、電気設計の役割はますます広がります。
④ 省エネ基準の適合義務化(2025年4月)
2025年4月から、原則としてすべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務づけられました。照明や動力の省エネ設計、一次エネルギー消費量の計算など、建物の省エネ性能は電気設備設計が大きく左右します。省エネが“任意の工夫”から“必須の要件”へ変わったことで、電気×省エネの設計はすべての建築で欠かせなくなりました。
⑤ 設備の高度化・スマート化と、老朽インフラの更新
IoTやBEMS(ビルのエネルギー管理)、防災設備の高度化により、電気設備そのものが年々複雑になっています。さらに、高度成長期以降に整備された膨大な建物・設備が更新の時期を迎えており、改修・リニューアルの需要も大きい分野です。新築だけでなく、既存ストックの改修においても電気設備設計は不可欠です。改修需要は景気に左右されにくく、新築が落ち着いた局面でも仕事が途切れにくいという点でも、この分野の安定性を支えています。
アッシュくんメモ:おもしろいのは、いま社会で話題の“大きな変化”がぜんぶ「電気」に集まってくること。AIも、EVも、太陽光も、省エネも、行き着く先は電気の設計なんだ。だから電気設備設計は、時代の真ん中にいる仕事だよ。
需要は伸びるのに、担い手は不足・高齢化している
需要が構造的に伸びる一方で、電気に関わる技術者は不足・高齢化が指摘されています。経済産業省の資料などでは、高圧以上の電気設備の維持・管理を担う電気主任技術者が今後10年で不足するとの見通しが示され、第一種電気工事士の高齢化・一斉退職のリスクにも懸念が示されています。設計・保安・施工のいずれの領域でも、人材が追いついていないのが実情です。
これは裏を返せば、需要が供給を上回るということです。確かな知識と経験を持つ電気設備設計者にとっては追い風であり、市場全体として“売り手市場”になりやすい環境が続くと考えられます。将来性という観点では、これほど条件のそろった分野は多くありません。
これから活躍できる電気設備設計者の姿
需要が広がるからこそ、求められる人物像も少しずつ変わってきています。これから長く活躍するために意識したいのは、次の3点です。
変化に対応する“アップデート力”
再エネ、EV、省エネ、情報通信。扱う対象は広がり続けています。新しい設備や基準を学び続け、自分の引き出しを増やしていける人が、これからの現場で頼りにされます。
分野をまたいで整合をとる力
電気設備は、意匠・機械設備・構造・情報通信と密接に関わります。データセンターの空調連携、EV導入時の受電容量、省エネの一次エネルギー計算。いずれも他分野との調整が前提です。電気だけで完結させず、建物全体の最適解を描ける設計者ほど重宝されます。
場所に縛られない働き方への適応
クラウドやBIM/CADの進化で、リモートや業務委託といった多様な働き方が広がっています。地方に住みながら都市部の案件に関わることも珍しくありません。働く場所の自由度が上がったことも、この分野でキャリアを続けやすくしている要素のひとつです。
まとめ
データセンター・生成AI、EV充電インフラ、再生可能エネルギー、省エネ基準の義務化、そして設備の高度化と更新需要。社会の転換のほとんどが、電気設備設計を必要としています。需要は構造的に伸び、その一方で担い手は不足している。これは、電気設備設計という仕事の将来性を力強く支える構図です。
学び続ける姿勢と、分野をまたいで整合をとる力を身につければ、電気設備設計者には長く活躍できるフィールドが広がっています。“電気”は、これからの建築と社会の真ん中にある仕事です。
よくある質問
電気設備設計はAIで仕事がなくなりませんか?
計算や作図の一部は効率化が進みますが、要求条件の整理、分野間の調整、安全性と法適合の判断など、人が担う設計の中核はむしろ重要度が増します。加えて、AIやデータセンターの普及そのものが電気設備の需要を生み出す側面が大きく、全体としては追い風です。
電気設備設計の需要は都市部だけですか?
いいえ。データセンター、EV充電、再生可能エネルギー、老朽設備の改修などは全国で進んでいます。さらにリモート・業務委託の広がりにより、地方に住みながら都市部の案件に関われる環境も増えています。
どんな資格が役立ちますか?
電気主任技術者(電験)、電気工事施工管理技士、建築設備士、第一種・第二種電気工事士などが代表的です。場面によっては必須でないこともありますが、専門性の証明になり、キャリアの幅を広げる助けになります。
これから特に伸びる分野はどこですか?
データセンター、EV充電インフラ、再生可能エネルギー・蓄電池、省エネ改修などが代表格です。いずれも電気設備設計が中核を担う領域で、当面は高い需要が続くと考えられます。
未経験からでも目指せますか?
電気の基礎知識や関連資格から段階的にステップアップするのが一般的です。実務では一定の経験が求められる場面も多いため、関連職種や現場で基礎を積むと、設計への移行がスムーズになります。
電気設備設計に向いているのはどんな人ですか?
目に見えない仕組みをコツコツと組み立てるのが好きな人、安全や品質にこだわれる人、そして新しい技術を学び続けられる人が向いています。電気は建物の“縁の下”で人々の暮らしを支える仕事です。表には出にくい分、確かな仕事が建物の安心に直結する。その手ごたえにやりがいを感じられる人にとって、長く続けられるフィールドです。
