自分の建物の電気事故が、ご近所一帯を停電させてしまう。そんな「波及事故」が、実際に起こります。それを防ぐのが、電気の保安管理と電気主任技術者の役割です。

この記事では、電気の保安管理とは何か、対象となる自家用電気工作物、電気主任技術者の選任義務、点検の中身、そして外部委託という選択肢までを、初めての方にも分かるように図解で解説します。

電気の保安管理とは

電気の保安管理とは、電気設備を感電・火災・事故から守り、安全に使い続けられる状態に保つための管理です。とくに高圧の電気を扱う設備は、扱いを誤ると大きな事故につながり、自分の建物だけでなく、周囲や電力系統にまで影響(波及事故)を及ぼすおそれがあります。

そのため、高圧で受電する設備には、電気事業法という法律にもとづいて、保安のための管理者を置き、点検を続けることが義務づけられています。これは任意の取り組みではなく、法律上の義務です。設計・施工した設備を、その後も安全に保つための仕組みだといえます。

アッシュくんメモ:電気設備は「作って終わり」じゃない。高圧の電気は事故が起きると被害が大きいから、専門家が見守り続けるルールになっているんだ。設計と保安は、安全という同じゴールの両輪だよ。

自家用電気工作物とは

保安管理の対象になるのが、自家用電気工作物と呼ばれる設備です。これは、電力会社から高圧(一般に6600ボルト)以上で受電する設備や、発電設備などを指します。前の記事で紹介したキュービクル(高圧受電設備)を持つ建物は、まさにこの自家用電気工作物にあたります。

一般の住宅のように、低圧(100ボルトや200ボルト)で電気を受ける場合は、電力会社側が保安を担うため、こうした義務はありません。しかし、ビルや工場、店舗などで高圧受電をする場合は、その設備の保安を設置者(建物側)が責任を持って行う必要があります。この違いを理解することが出発点です。つまり「高圧で受けているかどうか」が、保安管理の義務がかかる大きな分かれ目になります。

波及事故とは(なぜ保安が重要か)

高圧受電の設備でとくに恐れられているのが、波及事故です。これは、自分の建物の高圧設備で起きた事故(地絡や短絡など)が、電力会社の配電線を通じて周囲へ広がり、近隣一帯を停電させてしまう事故のことです。

自分の設備の不具合が、無関係な近隣の店舗や住宅まで巻き込んで停電させる、と考えると、その影響の大きさが分かります。波及事故を起こすと、社会的な影響に加え、原因を作った側の責任も問われます。こうした事故の多くは、劣化した機器の放置や点検不足が引き金になります。だからこそ、日ごろの保安管理と定期点検が重要なのです。保安管理は「もしもの大事故」を防ぐための、地道で確実な備えだといえます。

電気主任技術者の選任義務

自家用電気工作物を設置する事業者は、その保安を監督する電気主任技術者を選任することが、電気事業法で義務づけられています。電気主任技術者は、設備が安全に保たれているかを監督する、いわば電気設備の安全責任者です。

電気主任技術者になるには、電気主任技術者試験(電験)に合格するなどして資格を得る必要があります。資格は扱える電圧の範囲によって第一種・第二種・第三種に分かれ、三種でも多くの高圧受電設備をカバーできます。この資格は電気設備の分野で価値が高く、キャリアの武器になる国家資格として知られています。

保安規程と点検

電気主任技術者の選任とあわせて、設置者は保安規程というルールを定めて届け出ます。保安規程は、その設備をどう安全に管理するかを定めた、いわば保安の運用マニュアルです。そして、この規程にもとづいて定期的な点検を行います。

点検内容電気の状態
月次点検通電したまま、機器の状態や数値を目視・測定で確認電気を流したまま
年次点検停電させて、絶縁の状態などを精密に点検停電させて

月次点検では、電気を使いながら、機器に異常がないか、数値が正常かなどを確認します。年次点検では、いったん停電させて、通電中にはできない絶縁抵抗の測定など、より踏み込んだ点検を行います。年次点検の日は建物が停電するため、利用者への事前の周知が欠かせません。こうした点検の積み重ねが、事故を未然に防ぎます。

外部委託という選択肢

電気主任技術者を自社で雇って選任するのが基本ですが、小規模な事業者にとっては負担が大きい場合があります。そこで用意されているのが外部委託制度です。

一定の条件を満たす設備であれば、電気管理技術者(個人)や、電気保安協会・電気保安法人といった専門の事業者と保安管理の委託契約を結び、監督官庁の承認を受けることで、自社で電気主任技術者を選任しなくてもよくなります。実際、多くの中小の建物は、この外部委託によって保安管理を行っています。自社選任か外部委託か、建物の規模や体制に応じて選びます。

方法内容向いているケース
自社選任資格を持つ人を自社で選任し保安を監督大規模で設備が多い事業者
外部委託電気管理技術者や保安協会などへ委託し承認を受ける中小規模の建物

設計・実務とのつながり

保安管理は、設計や施工とも深く関わっています。設計の段階で次のような配慮をしておくと、その後の保安がしやすくなります。

  • 点検しやすい配置:受変電設備のまわりに点検スペースを確保し、機器の状態を確認しやすくします。
  • 停電作業のしやすさ:年次点検での停電を見込み、系統の分け方や切り替えを計画します。
  • 更新のしやすさ:機器には寿命があるため、将来の更新を見据えた計画にします。
  • 記録と表示:どの回路がどこにつながるかを明確にし、点検や管理をしやすくします。

電気設備は、設計・施工・保安が一続きになって、はじめて安全に使い続けられます。電気設備設計に携わるなら、作った先にある保安管理の世界まで理解しておくと、設計の質が一段と高まります。電気主任技術者の資格は、その理解を深め、キャリアを広げる大きな一歩にもなります。設計者が保安の視点を持つことは、点検や更新がしやすく、長く安全に使える設備づくりに直結します。逆に、保安の現場を知る人が設計の意図を理解していれば、日々の管理もぐっとやりやすくなります。設計と保安が互いを理解し合うことが、建物の電気を長く安全に保つ近道です。

まとめ:電気の保安管理の基礎

  • 高圧受電する自家用電気工作物には、電気事業法にもとづく保安管理が義務づけられている。
  • 自家用電気工作物とは、高圧(一般に6600ボルト)以上で受電する設備や発電設備など。
  • 設置者は電気主任技術者を選任し、その保安を監督させる義務がある。
  • 保安規程を定めて届け出て、月次点検(通電中)と年次点検(停電)を行う。
  • 自社選任のほか、電気管理技術者や保安協会などへの外部委託という選択肢がある。
  • 設計段階から点検・停電・更新のしやすさを見込むと、その後の保安がしやすい。

おさらいクイズ

この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。

  1. 高圧で受電する設備を何という?

    • 一般用電気工作物
    • 自家用電気工作物

    正解は自家用電気工作物。高圧受電のキュービクルを持つ建物などが該当します。

  2. その設備の保安を監督する資格者は?

    • 電気主任技術者
    • 建築士

    正解は電気主任技術者。電気事業法で選任が義務づけられています。

  3. いったん停電させて行う点検は?

    • 月次点検
    • 年次点検

    正解は年次点検。絶縁抵抗の測定など、通電中にはできない点検を行います。

よくある質問

すべての建物に電気主任技術者が必要ですか

いいえ。必要なのは、高圧以上で受電する自家用電気工作物を持つ建物です。低圧で受電する一般の住宅などは、電力会社側が保安を担うため、選任の義務はありません。ビルや工場など高圧受電の建物が対象になります。

電気主任技術者は自社で雇わないといけませんか

必ずしもそうではありません。一定の条件を満たせば、電気管理技術者や電気保安協会・保安法人へ保安管理を委託し、監督官庁の承認を受ける外部委託制度が利用できます。多くの中小の建物は、この外部委託で保安管理を行っています。

年次点検で停電するのはなぜですか

通電したままではできない点検があるためです。絶縁の状態を測るなど、より踏み込んだ点検は、安全のために電気を止めて行う必要があります。年次点検の日は建物が停電するので、利用者への事前の周知と、停電に備えた準備が欠かせません。

電気主任技術者の資格はどうやって取りますか

電気主任技術者試験(電験)に合格するのが一般的です。資格は扱える電圧の範囲で第一種・第二種・第三種に分かれ、三種でも多くの高圧受電設備を扱えます。電気設備の分野で評価の高い国家資格で、実務経験による認定の道もあります。

点検を怠るとどうなりますか

機器の劣化や不具合を見逃し、感電・火災や、近隣を巻き込む波及事故につながるおそれがあります。高圧設備の事故は影響が大きく、原因を作った側の責任も問われます。また、保安管理は法律上の義務であり、点検を怠ることは義務違反にもなります。地道な定期点検こそが、大きな事故を防ぐ最大の備えです。