「電圧降下の式は知っているけれど、実際の数字で計算しろと言われると手が止まる」。そんな方のための、手を動かして覚える計算例集です。式を眺めるだけでは計算力はつきません。よくある3つの場面を、電卓片手に一緒に解いていきましょう。
この記事は、電圧降下の基礎入門の続編です。仕組みや許容値の考え方から知りたい方は、先にそちらをどうぞ。ここでは計算の実践に絞ります。
計算の前に:式と係数のおさらい
低圧の銅線配線では、次の簡易式を使います。
電圧降下 e(ボルト)= 係数 × L × I ÷(1000 × A)
- L:電線のこう長(メートル。配線ルートに沿った片道の長さ)
- I:流れる電流(アンペア)
- A:電線の断面積(平方ミリメートル。より線なら sq の数値)
係数は配線方式で決まっています。
| 配線方式 | 係数 | 電圧降下を見る場所 |
|---|---|---|
| 単相2線式 | 35.6 | 線間 |
| 三相3線式 | 30.8 | 線間 |
| 単相3線式・三相4線式 | 17.8 | 電圧線と中性線の間(対100V) |
許容値の目安は内線規程にもとづき、低圧受電では幹線・分岐回路それぞれ2%以下、高圧受電の幹線では3%以下です(こう長が長い場合の緩和もあります)。電流の行き帰り(往復分)は係数に織り込み済みなので、Lは必ず片道で数えます。
例題1:単相2線式100Vのコンセント回路
問題:単相2線式100Vの分岐回路。負荷電流20A、こう長15m、電線は5.5sqを予定。電圧降下は許容範囲か。
手順1:式に代入する
e = 35.6 × 15 × 20 ÷(1000 × 5.5)
手順2:分子から計算する
35.6 × 15 × 20 = 10,680。分母は 1000 × 5.5 = 5,500。
手順3:割り算して率に直す
e = 10,680 ÷ 5,500 = 約1.94V。100Vに対する割合は 1.94 ÷ 100 = 約1.9%。
判定:2%以下に収まっているので、5.5sqでOKです。ただしぎりぎりなので、こう長がもう少し伸びる可能性があるなら、ひとつ上のサイズを検討する余地があります。
例題2:三相3線式200Vの動力回路
問題:三相3線式200Vの動力回路。負荷電流30A、こう長50m、電線は8sqを予定。電圧降下は許容範囲か。
手順1:式に代入する
e = 30.8 × 50 × 30 ÷(1000 × 8)= 46,200 ÷ 8,000 = 約5.78V
手順2:率に直す
5.78 ÷ 200 = 約2.9%。2%を超えてしまいました。
手順3:電線を太くして再計算する
14sqに上げると、e = 30.8 × 50 × 30 ÷(1000 × 14)= 46,200 ÷ 14,000 = 約3.3V。率は 3.3 ÷ 200 = 約1.65%。
判定:14sqなら許容範囲です。このように「仮のサイズで計算 → 超えたら太くして再計算」が実務の基本サイクルになります。こう長50mのように距離がある動力回路では、許容電流では足りていても電圧降下でサイズが決まる、という例題どおりの状況が頻繁に起こります。
アッシュくんメモ:「許容電流はOKなのに電圧降下でアウト」は動力回路のあるあるだよ。距離が長い回路ほど、先に電圧降下を疑ってみて!
例題3:単相3線式100/200Vの幹線
問題:単相3線式の幹線。負荷電流40A、こう長20m、電線は14sqを予定。電圧降下は許容範囲か。
手順1:係数に注意して代入する
単相3線式の係数は17.8です(電圧線と中性線の間、つまり対100Vで見ます)。
e = 17.8 × 20 × 40 ÷(1000 × 14)= 14,240 ÷ 14,000 = 約1.02V
手順2:率に直す
対100Vなので、1.02 ÷ 100 = 約1.0%。
判定:余裕をもって許容範囲です。単相3線式は係数が小さい(=中性線を活かせる)ぶん、同じ条件でも電圧降下面で有利なことが、数字からも実感できます。
自分の条件で計算してみよう(計算機つき)
例題の感覚がつかめたら、実際の条件で試してみましょう。配線方式と数字を入れるだけで、電圧降下と判定がその場で出ます。オーバーした場合は、クリアできる電線サイズのヒントも表示されます。
電圧降下かんたん計算機
こう長は片道で入れてね。判定の目安は低圧2%、高圧受電の幹線3%だよ。
計算機が表示されない環境では、下の早見表をご利用ください。
| 単相2線式100V・20Aの電圧降下率 | 5.5sq | 8sq | 14sq |
|---|---|---|---|
| こう長10m | 約1.3% | 約0.9% | 約0.5% |
| こう長20m | 約2.6% | 約1.8% | 約1.0% |
| こう長30m | 約3.9% | 約2.7% | 約1.5% |
この計算機は簡易式(銅線)にもとづく目安です。実際の設計では、許容電流や機械的強度もあわせて確認してください。
許容値を超えたときの4つの対処
- 電線を太くする:もっとも簡単で確実。例題2のとおり、断面積に反比例して電圧降下は小さくなります
- 供給電圧を上げる:100Vを200Vにすると、同じ電力でも電流が半分になり、電圧降下率は大きく改善します
- こう長を短くする:分電盤の位置を負荷の近くに寄せる、配線ルートを見直すなど、計画段階なら有効です
- 回路を分割する:1回路あたりの電流を減らせば、そのぶん電圧降下も減ります
おまけ:200V化の効果を数字で確かめる
対処2の「電圧を上げる」がどれほど効くか、例題で確かめてみましょう。単相2線式100V、20A、こう長30m、5.5sqの回路を計算すると、e = 35.6 × 30 × 20 ÷ 5,500 = 約3.88V。率は約3.9%で、大きくアウトです。
これを200Vに変えると、同じ電力なら電流は半分の10Aになります。e = 35.6 × 30 × 10 ÷ 5,500 = 約1.94V。しかも基準の電圧が200Vなので、率は 1.94 ÷ 200 = 約0.97%。電流が半分、基準電圧が2倍になるため、電圧降下率は元の約4分の1まで下がります。距離の長い回路で200V機器を選ぶ理由が、この数字に表れています。
実務でよくあるつまずきポイント
- こう長を往復で数えてしまう:往復分は係数に織り込み済み。Lは片道です
- こう長を直線距離で数えてしまう:図面上の最短距離ではなく、実際の配線ルートに沿った長さで拾います
- 単相3線式なのに35.6を使ってしまう:3線式は17.8。係数を間違えると結果が2倍ずれます
- 電流の見積りが甘い:負荷の定格だけでなく、将来の増設余地も見込んでおくと安心です。計算し直すより、最初に少し余裕を持たせるほうがずっと楽です
- 電圧降下だけで決めてしまう:電線サイズは許容電流・電圧降下・機械的強度の3つすべてを満たす必要があります。許容電流については電線とケーブルの基礎入門をどうぞ
まとめ:計算は「代入 → 率に直す → 判定」の3ステップ
- 式は「係数 × L × I ÷(1000 × A)」。係数は単相2線35.6、三相3線30.8、単相3線・三相4線17.8
- Lは片道のこう長。往復分は係数に織り込み済み
- 許容の目安は低圧受電で幹線・分岐それぞれ2%以下
- 超えたら「太くする・電圧を上げる・短くする・分割する」の4択で見直す
- 距離のある動力回路は、許容電流より先に電圧降下がネックになりやすい
おさらいクイズ
この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
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単相2線式の電圧降下の計算で使う係数はどれ?
- 35.6
- 30.8
- 17.8
正解は35.6。三相3線式は30.8、単相3線式・三相4線式は17.8です。
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式に入れるこう長Lの数え方は?
- 行きと帰りの往復分
- 配線ルートに沿った片道分
- 図面上の直線距離
正解は片道分。往復分は係数に織り込み済みで、ルートに沿った実長で拾います。
-
計算の結果、電圧降下が2%を超えたときの最も簡単な対処は?
- 負荷を我慢して減らす
- 係数を小さいものに変える
- 電線を太くして再計算する
正解は電線を太くする。断面積に反比例して電圧降下は小さくなります。係数は配線方式で決まるので変えられません。
よくある質問
この簡易式はどこで定められたものですか?
内線規程などで広く用いられている、銅線を前提とした実務の標準式です。電線の抵抗と往復分を係数にまとめています。長距離の高圧幹線や力率が特に低い回路など、リアクタンスの影響が無視できない場合は、より詳細な計算式を使います。
2%を少しでも超えたら違反になりますか?
2%(高圧受電の幹線は3%)は内線規程が示す設計の目安であり、こう長が長い場合の緩和規定もあります。ただし目安を超える設計は末端機器の動作不良につながりやすいため、実務では目安内に収めるのが原則です。最新の内線規程や社内基準で確認してください。
電流Iにはどの値を入れればよいですか?
その回路に実際に流れる負荷電流を使います。分岐回路なら接続する機器の定格電流、幹線なら需要率などを考慮した設計電流です。迷ったら安全側(大きめ)の電流で計算しておくと、後悔がありません。
アルミ電線でも同じ式が使えますか?
この記事の係数は銅線用です。アルミ電線は導電率が異なるため、係数が変わります。建物内の低圧配線は銅線が主流なので、まずは銅線用の係数で覚えておけば実務の大半に対応できます。
