同じ2階へ上がる階段でも、楽に昇れる階段と、なぜか疲れる階段があります。踏み外しそうで怖い階段もあれば、リズムよく駆け上がれる階段もある。その違いは、1段の寸法で決まっています。
今回はアッシュくんが、建物の設計にくわしいさと吉先生に、階段の寸法がどう決まるのかを教わります。
結論から言うと、階段の寸法は1段の高さである「蹴上(けあげ)」と、足を置く奥行きである「踏面(ふみづら)」の組み合わせで決まります。住宅では法令で蹴上23センチ以下・踏面15センチ以上という最低ラインが定められていますが、これは限界の値であり、昇りやすさの目安としては「蹴上の2倍+踏面が60から65センチ」に収まる寸法が用いられます。実際の住宅では蹴上18から20センチ、踏面22から25センチ前後が多く、この範囲が疲れにくいと言われています。
階段の寸法を表す2つの言葉とは
さと吉先生、階段の寸法って何を測るの? 高さと長さ?
階段は1段ごとの寸法で語るんだ。使う言葉は2つ。1段の高さを蹴上、足を置く板の奥行きを踏面という。
蹴上が高いと、一歩ごとに足を大きく持ち上げることになる。踏面が狭いと、足の裏が乗り切らずに踏み外しやすくなる。この2つの組み合わせが、昇りやすさも安全性も決めてしまう。
おもしろいのは、人の歩幅にはリズムがあることだね。平らな道を歩くときの歩幅と、階段を昇るときの足の運びを結びつけると、蹴上の2倍と踏面を足した値が60から65センチくらいのとき、いちばん自然に足が出ると言われている。これは長年の経験から見つけられた目安で、設計の現場でいまも使われているんだよ。
高さと奥行きの足し算にリズムがあるんだ! 疲れる階段は、そのリズムが崩れてるってことか。
法令の最低ラインと、実際の寸法はなぜ違う
| 法令の最低ライン(住宅) | よく使われる寸法(住宅) | |
|---|---|---|
| 蹴上(1段の高さ) | 23センチ以下 | 18から20センチ前後 |
| 踏面(奥行き) | 15センチ以上 | 22から25センチ前後 |
| 階段の幅 | 75センチ以上 | 80から90センチ前後 |
| 蹴上×2+踏面 | (定めなし) | 60から65センチが目安 |
法令の値をそのまま使うと、蹴上23センチ・踏面15センチという、かなり急で足の乗りにくい階段になります。これは「これより厳しい階段は認めない」という下限であって、快適な階段の寸法ではありません。だから設計では、下限より余裕のある寸法を選びます。
なお、この値は住宅の場合です。共同住宅の共用階段や、学校、劇場、店舗など多くの人が使う建物では、より緩やかな階段が求められ、蹴上の上限は低く、踏面の下限は広く、幅も広く定められています。建物の用途と規模によって基準が変わるという点は押さえておいてください。
アッシュくんメモ:法律の数字は「ここまでなら許す」の線で、「これがちょうどいい」の線じゃないんだね。設計者はその間で答えを探してるんだ。
階段が長くなると何が起きるのか
じゃあ蹴上を低くして踏面を広くすれば、楽な階段になるんだよね?
楽にはなる。でも代わりに階段が長くなるんだ。ここが設計の悩みどころだよ。
1階から2階までの高さは決まっている。たとえば3メートル近くあるとして、蹴上を低くすれば段数が増える。踏面を広くすれば1段ごとの奥行きが増える。つまり緩やかな階段ほど、床の上で長い距離を占める。階段のために使う面積が増えれば、そのぶん部屋が狭くなる。
だから階段の設計は、昇りやすさと面積の取り合いなんだ。折り返して2方向に曲げたり、途中に踊り場を入れたりするのは、この長さを建物の中に納めるための工夫でもある。ちなみに高さが一定を超える階段には、途中に踊り場を設けることが求められている。転げ落ちたときに止まる場所であり、息をつく場所でもあるんだよ。
階の高さは天井の高さと床や梁の厚みで決まります。天井高の考え方は天井の高さの標準は240cmで解説しています。天井を高くすると階段も長くなる、という連鎖がここにあります。
安全のために寸法以外で決まっていること
- 手すり:階段には手すりを設けることが求められます。片側だけでなく両側に設けると、体の左右どちらに不自由がある人でも使えます
- 段の先端(段鼻):つまずきの原因になる出っ張りを大きくしない、滑り止めを設けるといった配慮がされます
- 照明:段の境目が見えないと踏み外します。足元を照らす明かりや、段の先端が影で分かる照らし方が有効です
- 段の均一さ:1段だけ高さが違う階段は、体が覚えたリズムを裏切るため転倒の原因になります。すべての段を同じ寸法でそろえるのが基本です
- 回り階段の内側:曲がる部分の踏面は内側で極端に狭くなります。安全のため、踏面を測る位置にも決まりがあります
誰にとっても使いやすい階段や、階段以外の移動手段の考え方はバリアフリーとユニバーサルデザインで解説しています。避難のための階段については非常階段はなぜ屋外にあるをどうぞ。
自宅の階段を測ってみる
階段の寸法は、家の中でいちばん手軽に測れる設計の数字です。メジャー1本で確かめられます。
- 蹴上を測る:1段の床面から、次の段の床面までの高さ。数段測って平均をとります
- 踏面を測る:段の先端から、次の段の立ち上がりまでの奥行き。出っ張り(段鼻)は含めません
- 足し算する:蹴上の2倍に踏面を足して、60から65センチに入っているかを見ます
- 感覚と比べる:数字が範囲から外れていれば、「疲れる」「怖い」と感じていた理由が説明できます
古い住宅では、蹴上が高く踏面の狭い急な階段が珍しくありません。数字を知っておくと、リフォームや住み替えで階段を見るときの判断材料になります。
今夜さっそく家の階段を測ってみるよ。「疲れる」と感じてた理由が数字で分かるなんて、ちょっとわくわくする。
その体験が設計を学ぶいちばんの入口だよ。階段は、人の体の動きを寸法に翻訳した部材なんだ。数字を知ると、駅の階段、学校の階段、古い家の階段、それぞれがなぜその形なのかが見えてくる。街を歩くたびに、足の裏で設計を読めるようになるはずだよ。
まとめ:蹴上と踏面のリズムが階段を決める
- 階段の寸法は、1段の高さ(蹴上)と奥行き(踏面)の組み合わせで決まる
- 住宅の法令の最低ラインは蹴上23センチ以下・踏面15センチ以上・幅75センチ以上。これは下限であって快適な値ではない
- 昇りやすさの目安は「蹴上×2+踏面=60から65センチ」。住宅では蹴上18から20センチ、踏面22から25センチ前後が多い
- 多くの人が使う建物では、より緩やかな階段が求められ、基準が変わる
- 緩やかな階段ほど長くなり面積を使う。昇りやすさと面積の取り合いが設計の悩み
- 手すり、段の先端の処理、照明、段の均一さも安全を左右する
おさらいクイズ
さと吉先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
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「蹴上」とは階段のどの寸法?
- 足を置く板の奥行き
- 1段の高さ
- 階段全体の幅
正解は1段の高さ。足を置く奥行きは踏面です。この2つの組み合わせが昇りやすさと安全性を決めます。
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昇りやすい階段の目安としてよく使われるのは?
- 蹴上と踏面が同じ長さ
- 蹴上が踏面の2倍
- 蹴上×2+踏面が60から65センチ
正解は3番。人が歩くリズムと足の運びから見つけられた経験則で、設計の現場でいまも使われています。
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階段を緩やかにすると起きることは?
- 段数や奥行きが増えて、階段が長くなり面積を使う
- 階の高さが低くなる
- 手すりが不要になる
正解は1番。階の高さは決まっているため、蹴上を低くすれば段数が増え、踏面を広くすれば長くなります。昇りやすさと面積の取り合いが設計の悩みです。
よくある質問
急な階段を緩やかにリフォームできますか?
可能な場合もありますが、大がかりになりがちです。階段を緩やかにするには長さが必要で、その分の床面積を階段に譲ることになります。間取りの変更を伴うため、リフォームの計画全体の中で検討します。手すりの追加や滑り止め、足元の照明といった改善は、寸法を変えずにできる現実的な対策です。
高齢の家族のために階段はどうすればよいですか?
両側の手すり、段の先端が見える照明、滑りにくい仕上げが基本の対策です。将来的に階段の昇降が難しくなる場合に備え、1階だけで生活できる間取りにしておくという考え方もあります。新築時に階段の寸法に余裕を持たせておくことも、長く住むうえで効きます。
踏面と蹴上、どちらを優先すべきですか?
どちらか一方ではなく、組み合わせで考えます。踏面が広くても蹴上が高ければ疲れますし、蹴上が低くても踏面が狭ければ踏み外します。「蹴上×2+踏面」の目安に収めつつ、使える面積の中でバランスをとるのが設計の手順です。
らせん階段は危なくないのですか?
回転する階段は、内側の踏面がどうしても狭くなるため、外側を歩くよう手すりの位置で誘導する、内側の狭い部分を測る位置に決まりを設けるといった配慮がされます。デザイン性が高く省スペースな反面、大きな荷物の運搬や高齢の方の利用には向きにくい面があります。
階段の下の空間は使ってもいいですか?
収納やトイレとして使われることが多く、有効な活用法です。ただし階段の構造を支える部材を傷めないこと、天井の低さが使い勝手に合うことを確認します。設備の配管や配線の通り道として使われることもあるため、点検できる形にしておくと後で助かります。
