オフィスや店舗、工場の安全を守る監視カメラや、ICカードでドアを開ける入退室管理。これらは防犯・セキュリティ設備と呼ばれ、電気設備設計では通信設備とならぶ「弱電」の一分野です。近年は防犯意識の高まりや無人化で、導入する建物が大きく増えています。
この記事では、防犯・入退室管理設備がどんな要素で成り立ち、監視カメラや電気錠、機械警備がどう働くのかを、初めての方にも分かるように図解で解説します。あわせて、火災時の解錠など設計で外せない実務のポイントも紹介します。
防犯・セキュリティ設備とは
防犯・セキュリティ設備とは、建物や人、財産を犯罪や侵入から守るための設備の総称です。目的は大きく、犯罪を思いとどまらせる抑止、映像で残す記録、入れる人を制限する入退室制限、異常を知らせる通報の4つに分けられます。
代表的な構成は次のとおりです。それぞれが単独でも働きますが、組み合わせることで守りが強くなります。
見張り・記録
入れる人を制限
侵入を検知し通報
異常を知らせる
アッシュくんメモ:防犯設備は「見る・入れない・気づく・知らせる」の4役。1つだけより、いくつか組み合わせるほど、すき間のない守りになるんだ。
監視カメラ設備
監視カメラは、建物の出入口や死角、金銭を扱う場所などを見張り、映像を記録する設備です。近年はネットワークカメラが主流で、LANケーブルでつなぎ、映像を録画装置に保存します。多くはPoEに対応し、LANケーブル1本で通信と電源をまかなえるため、電源工事を減らせます。
カメラには形や機能でいくつかの種類があります。天井に埋め込むドーム型は目立ちにくく死角を作りにくい、箱型のボックス型は存在感があり抑止力が高い、遠隔で向きやズームを操作できる旋回型は広い範囲を1台でカバーできる、といった具合です。暗い場所では赤外線で撮影できる暗視機能付きが使われます。守りたい場所の性格に合わせて選びます。
設計では、守りたい場所と死角をふまえてカメラの位置と台数を決めます。出入口や通用口、駐車場、レジ周りなどが優先されます。録画装置の容量や保存日数、夜間の暗さへの対応なども検討事項です。ネットワークでつなぐため、通信設備(LAN)の計画とも密接に関わります。
入退室管理設備
入退室管理は、「誰が」「いつ」「どこに」入れるかを制御し、その記録を残す設備です。ドアには後述する電気錠を設け、認証が通ったときだけ解錠します。認証方式にはいくつか種類があり、必要なセキュリティの高さや使い勝手で選びます。
| 認証方式 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 暗証番号 | 番号を入力するだけで手軽・低コスト | 番号が漏れると誰でも入れる |
| ICカード | 社員証などをかざすだけで速い | 紛失・貸し借りのリスク |
| 生体認証(指紋・顔など) | 本人そのものを認証し紛失がない | 装置の費用が比較的高い |
| スマートフォン | 専用アプリで解錠でき管理が柔軟 | 端末や通信環境に依存 |
より高いセキュリティが必要な場所では、ICカードと暗証番号のように2つの方式を組み合わせるマルチ認証も使われます。入退室の履歴が残るため、後から「いつ誰が入ったか」を確認でき、共連れ(他人について同時に入ること)の抑止にもつながります。
電気錠の種類
入退室管理の要となるのが、電気で施解錠する電気錠です。仕組みや停電時の動きにいくつか種類があります。
- 電気ストライク:ドア枠側の受け金具を電気で動かすタイプ。既存ドアにも比較的付けやすいのが特徴です。
- 電磁ロック:電磁石の力で扉を固定するタイプ。通電している間だけ施錠します。
- モーター錠:モーターでかんぬきを動かすタイプ。しっかり施錠でき、防犯性が高い傾向です。
設計で特に大切なのが、停電したときにどうなるかです。電気錠には、停電で施錠される通電時解錠型(フェイルセキュア)と、停電で解錠される通電時施錠型(フェイルセーフ)があります。避難が優先される出入口では、停電や火災時に解錠されるフェイルセーフを選ぶのが基本です。安全と防犯のどちらを優先すべきかを、ドアごとに考えて選定します。
アッシュくんメモ:電気錠は「停電したらどうなる?」が一番大事。逃げる扉が停電で開かなくなったら大変。だから避難口は『電気が切れたら開く』側に倒すのが原則なんだ。
機械警備と非常通報
機械警備は、人がいない時間帯の建物を、センサーと通報で守る仕組みです。扉や窓の開閉を検知するマグネットセンサーや、人の動きをとらえる熱線センサーなどを設け、異常を検知すると警備会社などへ自動で通報します。警備員が駆けつける有人対応と組み合わせるのが一般的です。
また、強盗や急病などの緊急時に人が押して知らせる非常押しボタン(非常通報装置)を設けることもあります。金融機関や店舗のレジ周りなどで使われ、静かに異常を知らせて助けを呼べるようにします。無人時はセンサーで、有人時は人の操作で、というように時間帯や状況に応じて守り方を切り替えます。警備員が常にいる常駐警備に比べ、機械警備はセンサーと通報で守るため、費用を抑えながら無人の時間帯をカバーできるのが利点です。
セキュリティのゾーニング
防犯・入退室管理を計画するうえで土台になるのが、ゾーニングという考え方です。これは、建物を重要度に応じたエリアに分け、それぞれに求めるセキュリティの強さを変える方法です。すべてを一律に厳重にするのではなく、メリハリをつけることで、使い勝手とコストと安全のバランスを取ります。
たとえば、誰でも入れる受付やロビーは緩やかに、社員だけが入る執務エリアはICカードで、サーバー室や金庫室のような重要区画は生体認証やマルチ認証で、というように段階を設けます。奥のエリアへ進むほど認証を強くする多層の守りにすると、万一手前を突破されても、重要区画までは容易に到達できません。カメラや機械警備の重点配置も、このゾーニングに沿って決めていきます。
設計での実務ポイント
防犯・入退室管理設備の設計では、次のような点を検討します。
- 電源と弱電盤:カメラや制御装置、電気錠の電源を確保し、弱電盤やラックにまとめます。停電時に備えた予備電源の要否も検討します。
- 通信設備との連携:ネットワークカメラや入退室装置はLANでつながるため、通信設備の計画と一体で進めます。
- 防災設備との連動:火災時は避難を優先し、自動火災報知設備などと連動して避難口の電気錠を解錠する計画が重要です。
- 配線ルートと将来増設:カメラや扉の増設に備え、余裕のある配線ルートや空配管を見込みます。
- プライバシーへの配慮:カメラの向きや撮影範囲、映像の管理方法に配慮し、必要な範囲に絞ります。
防犯設備は、通信設備や防災設備と密接につながっています。とくに火災時の解錠は人命に関わるため、防犯の都合だけで閉じきりにせず、避難との両立を最優先に設計することが欠かせません。
まとめ:防犯・入退室管理設備の基礎
- 防犯・セキュリティ設備は弱電の一分野で、抑止・記録・入退室制限・通報が目的。
- 主な構成は監視カメラ・入退室管理・機械警備・非常通報の4つ。
- 監視カメラはネットワークカメラが主流で、PoE給電とLAN計画に密接に関わる。
- 入退室管理は暗証番号・ICカード・生体認証などで認証し、電気錠で施解錠する。
- 電気錠は停電時の動き(フェイルセーフ・フェイルセキュア)の選定が最重要。
- 火災時は避難優先で電気錠を解錠するなど、防災設備との連動が欠かせない。
おさらいクイズ
この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
-
避難が優先される出入口の電気錠に選ぶのは?
- 停電で解錠されるフェイルセーフ
- 停電で施錠されるフェイルセキュア
- どちらでもよい
正解はフェイルセーフ。停電時に解錠され、避難を妨げません。
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LANケーブル1本で通信と電源をまかなえる監視カメラは?
- アナログカメラ
- PoE対応のネットワークカメラ
- 電池式カメラ
正解はPoE対応カメラ。別の電源工事を省けることが多いです。
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火災など避難が必要なとき、電気錠はどうする?
- 施錠したまま
- 半分だけ開く
- 人命を優先し、避難口を解錠するよう設計する
正解は3番目。自動火災報知設備などと連動させます。
よくある質問
停電すると電気錠は開きますか閉まりますか
電気錠の種類によります。停電で解錠される通電時施錠型(フェイルセーフ)と、停電で施錠される通電時解錠型(フェイルセキュア)があります。避難が優先される出入口では、停電時に解錠されるフェイルセーフを選ぶのが基本です。
監視カメラは電源工事が必要ですか
PoE対応のネットワークカメラなら、LANケーブル1本で通信と電源をまかなえるため、別の電源工事を省けることが多いです。ただし消費電力の大きい機種や特殊な用途では、別途電源が必要になる場合があります。
入退室管理の認証はどれを選べばよいですか
必要なセキュリティの高さと使い勝手で選びます。手軽さなら暗証番号やICカード、紛失リスクを避け高いセキュリティが必要なら生体認証が向きます。重要な場所では複数の方式を組み合わせるマルチ認証も有効です。
防犯設備は火災のときも施錠したままですか
いいえ。火災など避難が必要なときは、人命を優先して避難口を解錠するよう設計します。自動火災報知設備などと連動させ、火災時に電気錠が解錠される仕組みにするのが基本です。防犯と避難の両立が設計の要点です。
