火事が建物全体に一気に燃え広がったら、逃げる時間もありません。それを防ぐため、建物はあらかじめ「区切られて」います。船の防水区画にそっくりな、防火区画の話です。
この記事では、防火区画とは何か、4つの種類、区画をつくる防火設備、そして設備設計にも関わる貫通処理までを、初めての方にも分かるように図解で解説します。
防火区画とは
防火区画とは、火災の延焼や煙の拡大を防ぐために、建物の内部を耐火性能のある壁や床で区切ることです。建物を一定の範囲ごとに区切っておけば、火災が起きても、火や煙をその区画の中に閉じ込め、他へ広がるのを遅らせることができます。
これによって、中にいる人が避難する時間を確保し、消火活動をしやすくし、被害を最小限に抑えます。防火区画は建築基準法(施行令第112条)で定められており、建物の用途・規模・階数に応じて、必要な区画が決まります。火災を「一部で食い止める」ための、建物側の基本的な備えです。
アッシュくんメモ:防火区画は船の「防水区画」に似ているよ。船底に穴が開いても、区画で仕切ってあれば浸水が全体に広がらない。火災でも同じで、区切っておけば被害を一部に抑えられるんだ。
4つの防火区画
防火区画は、目的によって大きく4つの種類に分かれます。
| 種類 | 何を区切るか | 目安 |
|---|---|---|
| 面積区画 | 広い空間を一定の面積ごとに区切る | 原則、耐火建築物で1500平方メートルごとなど |
| 高層区画 | 高層階を細かく区切る | 原則、11階以上で100平方メートルごとなど |
| 竪穴区画 | 階段・吹抜け・エレベーターなど縦の空間を区切る | 縦方向の貫通部分 |
| 異種用途区画 | 用途の違う部分の境目を区切る | 店舗と住宅など |
面積区画は、広いフロアを一定の面積ごとに区切って延焼範囲を抑えるものです。高層区画は、避難に時間のかかる高層階をより細かく区切ります。竪穴区画は、後で詳しく説明する縦方向の空間を区切るもの。異種用途区画は、店舗と住宅のように危険性の異なる用途の境目を区切るものです。面積などの数値には多くの条件や緩和があるため、実際の設計では令112条の規定と専門家の確認が欠かせません。
防火区画をつくるもの(防火設備)
防火区画は、耐火性能のある壁と床で囲うことでつくります。しかし、壁や床には、人が通る出入口や、廊下へつながる開口部があります。この開口部をふさぐのが、防火戸や防火シャッターといった防火設備です。
これらは、ふだんは開いていても、火災のときには閉じて区画を完成させる必要があります。そのため、常に閉まっているもののほか、煙感知器などと連動して自動で閉じるものがあります。自動火災報知設備が煙を感知すると、防火戸やシャッターが自動で閉まり、火と煙を区画内に閉じ込めます。防火区画は、壁・床という「固定の仕切り」と、防火戸・シャッターという「開口部の仕切り」がそろって、はじめて機能します。逆に、防火戸の前に物が置かれて閉まらなくなっていると、区画は成立しません。日ごろから、防火戸やシャッターの周りに物を置かないことも大切です。
竪穴区画がとくに重要な理由
4つの区画の中でも、竪穴区画はとくに重要です。竪穴とは、階段やエレベーターのシャフト、吹抜けなど、複数の階を縦につらぬく空間のことです。
火災で発生した煙や炎は、こうした縦の空間を通って、下の階から上の階へ一気に燃え広がります。煙突の中を煙が上っていくのと同じ原理(煙突効果)で、縦の空間は火と煙の通り道になりやすいのです。もし階段が区画されていなければ、下の階の火災の煙が階段を伝って上階へ広がり、避難路であるはずの階段が使えなくなってしまいます。だからこそ、縦方向の空間を区画し、各階との間を防火戸などで仕切ることが、避難の安全に直結するのです。
区画を貫通する配管・配線の処理
ここで、設備設計に深く関わる重要なポイントがあります。防火区画の壁や床には、空調のダクトや、給排水の配管、電気の配線などが貫通することがよくあります。この貫通部をそのままにしておくと、そこから火や煙がもれて、せっかくの区画が役に立たなくなってしまいます。
そこで、区画を貫通する部分には、火や煙を通さないための処理(貫通処理)を施します。ダクトが区画を貫く部分には、火災時に自動で閉じる防火ダンパーを設けます。配管や配線が貫く部分は、すき間を耐火性のある材料でふさぎます。これらの処理を怠ると、防火区画は「穴の空いた仕切り」になってしまいます。防火区画は建築だけの話ではなく、設備の設計・施工と一体で守るべきものなのです。
他の防災設備との連携
防火区画は、単独ではなく、他の防災設備と連携して初めて効果を最大限に発揮します。火災の広がりを「区切って止める」防火区画に対し、他の設備はそれぞれ違う役割で避難と消火を支えます。
- 自動火災報知設備:火災を感知し、防火戸やシャッターを自動で閉じる引き金になります。
- 排煙設備:区画内にたまった煙を外へ逃がし、避難路の視界を確保します。
- スプリンクラーなどの消火設備:初期の火災を抑え、延焼そのものを食い止めます。
たとえば、火災を自動火災報知設備が感知して防火戸を閉じ、区画内の煙を排煙設備が逃がし、スプリンクラーが火を抑える、というように、各設備が役割を分担します。防火区画は、その連携の土台となる「仕切り」を提供する存在です。なお、スプリンクラーの設置によって区画の基準が緩和される場合もあり、設備と建築は互いに影響し合います。
設計・実務ポイント
防火区画を計画するときは、次の点に気を配ります。
- 必要な区画の確認:建物の用途・規模・階数から、どの区画が必要かを令112条で確認します。
- 防火設備と連動:防火戸・シャッターの位置を決め、自動火災報知設備と連動して確実に閉じるように計画します。
- 貫通処理の徹底:ダクト・配管・配線が区画を貫く部分は、防火ダンパーや耐火材で確実に処理します。
- 意匠・設備との調整:区画の位置は、間取りや設備のルートに影響します。建築・設備・意匠で早めに調整します。
- 緩和規定の確認:スプリンクラー設置による緩和など、条件による緩和があるため、規定を確認します。
防火区画は、目立たないながら人命を守る要の仕組みです。壁や床で区切るだけでなく、開口部の防火設備、そして貫通処理までがそろって、はじめて機能します。建築と設備がそれぞれの役割を果たし、連携してこそ守れる安全だといえます。ふだんは意識されない仕組みですが、いざというときに人の命を分けるのが防火区画です。
まとめ:防火区画の基礎
- 防火区画は、火や煙の拡大を防ぐために建物内を耐火の壁・床で区切る仕組み。
- 面積区画・高層区画・竪穴区画・異種用途区画の4種類があり、建築基準法令112条で定められる。
- 開口部は防火戸・防火シャッターでふさぎ、煙感知と連動して自動で閉じる。
- 竪穴区画は、煙突効果で火煙が縦に広がるのを防ぐ、避難に直結する重要な区画。
- 区画を貫くダクト・配管・配線は、防火ダンパーや耐火材で貫通処理する。
- 建築・設備・意匠が連携し、貫通処理まで含めて計画することで機能する。
おさらいクイズ
この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
煙突効果で火煙が縦に広がるのを防ぐ区画は?
- 面積区画
- 竪穴区画
正解は竪穴区画。階段や吹抜けなど縦の空間を仕切り、延焼と煙の上昇を防ぎます。
区画の開口部(出入口)をふさぐのは?
- 防火戸・防火シャッター
- カーテン
正解は防火戸・防火シャッター。煙感知と連動して自動で閉じます。
ダクトが区画を貫く部分に必要なのは?
- 防火ダンパーや耐火材
- 装飾パネル
正解は防火ダンパーや耐火材。貫通部の処理を怠ると区画が機能しません。
よくある質問
防火区画は何のためにありますか
火災のときに、火や煙が建物全体へ一気に広がるのを防ぐためです。建物を区画で区切っておけば、火災を一部に閉じ込め、中の人が避難する時間や、消火活動の余裕を確保できます。被害を最小限に抑えるための、建物側の基本的な備えです。
防火戸はなぜ煙感知器と連動するのですか
火災時に、人が操作しなくても確実に区画を閉じるためです。ふだん開いている防火戸やシャッターは、閉じてはじめて区画として機能します。煙感知器と連動させておけば、火災を感知した瞬間に自動で閉まり、火と煙を区画内に閉じ込められます。
竪穴区画とは何ですか
階段やエレベーター、吹抜けなど、複数の階を縦につらぬく空間を区切る区画です。縦の空間は、煙突のように火や煙が下から上へ一気に広がる通り道になりやすいため、各階との間を仕切って延焼と煙の拡大を防ぎます。避難路の安全を守るうえで特に重要です。
配管が防火区画を貫く場合はどうしますか
貫通する部分に、火や煙を通さない処理(貫通処理)を施します。ダクトには火災時に閉じる防火ダンパーを設け、配管や配線のすき間は耐火性の材料でふさぎます。この処理をしないと、貫通部から火煙がもれ、区画が機能しなくなるため、設備設計で欠かせない対応です。
