夏の激しい雷。建物にとって、雷は火災や停電、機器の故障を引き起こす大きな脅威です。とくに背の高い建物は、雷が落ちやすくなります。その雷から建物と人、そして中の機器を守るのが避雷設備です。屋上に立つ細い針(避雷針)を見たことがある人も多いでしょう。あの針一本にも、きちんとした考え方が詰まっています。
この記事では、電気設備の基礎として、避雷設備のしくみをやさしく整理します。避雷設備とは何か、3つの構成、どうやって守るのか、そして電線を伝う雷への備えまで、初心者にも分かるように順番に解説します。
避雷設備とは(雷を安全に大地へ逃がす)
避雷設備とは、建物に落ちる雷を安全に受け止め、その巨大な電流を大地へ逃がすための設備です。名前から「雷を避ける(寄せ付けない)設備」と思われがちですが、実際は逆で、あえて決まった場所で雷を受け止め、決まった道を通して地面へ流す設備です。雷を無理に避けるのではなく、うまく受け流すイメージです。
雷の電流は数万から数十万アンペアにもなり、まともに建物に落ちれば、火災や破損、内部の機器の故障を引き起こします。そこで、建築基準法では、高さ20mを超える建築物に避雷設備の設置を義務づけています。背の高い建物ほど雷を受けやすいため、法律で守りを求めているわけです。
避雷設備の3つの構成
避雷設備は、大きく3つの部分でできています。この3つが「受ける→導く→逃がす」の流れでつながって、初めて役目を果たします。
- 受雷部:雷を受け止める部分。屋上に立てる突針(避雷針)や、屋上に張る水平の導体などがあります。ここへ雷を誘導して受け止めます。
- 引下げ導線:受雷部で受けた雷電流を、地面近くの接地極まで導く導体です。建物の側面を垂直に通します。
- 接地極:地中に埋めた金属で、雷電流を最終的に大地へ放流します。地下0.5m以上の深さに埋めるなどの決まりがあります。
引下げ導線は、専用の銅線などを使うほか、建物の鉄骨や鉄筋そのものを導体として利用する方法(構造体利用)もあります。大きな建物では、構造体を生かして効率よく雷電流を逃がすことが多くなっています。以前のアースの記事で触れた「地面へ逃がす」考え方が、雷という桁違いの電流でも使われているわけです。
どこまで守れるか(保護の考え方)
受雷部をどこに、どれだけ設ければよいのかは、感覚ではなく決められた方法で計算します。代表的なのが保護角法や回転球体法という考え方です。
むずかしく聞こえますが、イメージはシンプルです。受雷部を頂点に、ある角度で広がる傘のような範囲(保護角法)や、大きな球を建物の上で転がしたときに球が触れない部分(回転球体法)を「守られる範囲」とみなし、建物全体がその範囲に収まるように受雷部を配置します。守りたい範囲の広さや建物の重要度に応じて、保護レベルを選んで設計します。
アッシュくんメモ:避雷針は「1本立てれば安心」ではないんだ。針の先から広がる決まった範囲しか守れないから、建物の形や高さに合わせて、必要な数と位置を計算して配置する。ここが設計の腕の見せどころなんだよ。
直撃雷と誘導雷、機器を守るSPD
雷の被害には、実は2種類あります。避雷設備が主に守るのは、建物に直接落ちる直撃雷です。しかし、もう一つ、直接落ちなくても被害を出す誘導雷(雷サージ)があります。
雷が近くに落ちると、その影響で電線や通信線に大きな過電圧(雷サージ)が発生し、それが線を伝って室内へ入り込み、パソコンや家電、設備機器を壊してしまうことがあります。避雷針で直撃を防いでも、この電線経由の雷サージまでは防げません。
そこで、電線の入口などにSPD(避雷器・サージ保護デバイス)を設けます。SPDは、雷サージのような異常な過電圧が来たときだけ、その電気を大地へ逃がし、機器へ流れ込むのを防ぎます。避雷設備が建物を守る外部雷保護なら、SPDは機器を守る内部雷保護、と整理すると分かりやすくなります。
アッシュくんメモ:「うちは背が低いから雷は関係ない」と思いがちだけど、近くに落ちた雷のサージが電線を伝って家電を壊すことは、低い建物でも起きるんだ。だから機器を守るSPD(内部保護)は、高さに関係なく考える価値があるんだよ。
| 種類 | 守るもの | 手段 |
|---|---|---|
| 外部雷保護 | 建物本体(直撃雷) | 受雷部・引下げ導線・接地極(避雷設備) |
| 内部雷保護 | 室内の機器(雷サージ) | SPD(避雷器・サージ保護デバイス) |
建物での計画と維持管理
避雷設備は、建物の安全を長く守るために、計画と維持の両面が大切です。設計・管理で押さえておきたい点を挙げます。
- 設計段階から組み込む:受雷部や引下げ導線、接地は、建物の形や構造と一体で計画します。とくに構造体利用は、設計の早い段階からの検討が欠かせません。
- 接地をしっかり取る:雷電流を確実に大地へ逃がすには、良好な接地が要です。地質によっては、接地極を増やすなどの工夫をします。
- 定期点検:引下げ導線の断線やゆるみ、接地の劣化、SPDの寿命などを定期的に点検します。いざというときに働かなければ意味がないためです。
- SPDは消耗品:SPDは雷サージを受け止めるたびに少しずつ傷みます。役目を終えたSPDは交換が必要で、状態を示す表示を確認します。
雷はいつ来るか分かりませんが、来たときに確実に働いてこそ意味があります。維持管理の記事で触れた「ふだん使わない設備ほど点検が大切」という考え方は、避雷設備にもそのままあてはまります。
そもそも雷はどこに落ちやすい?
避雷設備の考え方を理解するには、雷の性質を少し知っておくと役立ちます。雷は、雲にたまった電気が地面に向かって一気に流れる、自然の巨大な放電現象です。
- 高いところに落ちやすい:雷は、周りより高く突き出たものに落ちやすい性質があります。高い建物・鉄塔・煙突などが狙われやすいのはこのためで、避雷針もこの性質を利用して、あえて高い位置で雷を受け止めます。
- とがったところに集まりやすい:電気は、とがった先端に集中しやすい性質があります。避雷針が針状なのは、電界を集めて落雷を誘導するためです。
- 近くでも被害が出る:直接落ちなくても、近くへの落雷で発生する雷サージが、電線を伝って機器を壊します。だから直撃対策だけでは不十分なのです。
つまり避雷設備は、「高い・とがった所に落ちやすい」という雷の性質を逆手にとって、狙った場所(受雷部)で受け止め、安全な道で地面へ逃がす、という考え方でできています。自然の力に逆らうのではなく、その性質を利用して受け流す。ここが避雷設備の賢いところです。
まとめ:避雷設備の基礎を押さえる
- 避雷設備は、雷をあえて受け止めて大地へ安全に逃がす設備。高さ20m超の建物は設置が義務。
- 構成は受雷部(受ける)・引下げ導線(導く)・接地極(逃がす)の3つ。
- 受雷部は保護角法や回転球体法で、守れる範囲を計算して配置する。
- 直撃雷は避雷設備、電線を伝う雷サージはSPD(内部雷保護)で守る。役割が別。
- 設計段階からの組み込みと、定期点検・SPDの交換が安全を保つカギ。
- 雷は「高い・とがった所」に落ちやすい。その性質を利用して受け流すのが避雷設備。
おさらいクイズ
この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
-
避雷針の役割はどれ?
- 雷を寄せ付けない
- あえて受け止め、大地へ安全に逃がす
- 雷そのものを消す
正解は2番目。引下げ導線と接地極を通して大地へ流します。
-
避雷設備の設置が義務づけられる建物の高さは?
- 10mを超える
- 15mを超える
- 20mを超える
正解は20m超。建築基準法で定められています。
-
電線を伝ってくる雷サージから機器を守るには?
- SPD(避雷器)による内部雷保護
- 避雷針だけで十分
- とくに何もいらない
正解はSPD。直撃雷は避雷設備、機器はSPDと、両方そろって安心です。
よくある質問
避雷針を立てれば雷は落ちなくなるのですか
落ちなくなるのではなく、あえて避雷針に落として安全に逃がす設備です。避雷針が雷を受け止め、引下げ導線と接地極を通して大地へ流すことで、建物本体への被害を防ぎます。雷を寄せ付けないわけではありません。
どんな建物に避雷設備が必要ですか
建築基準法で、高さ20mを超える建築物に設置が義務づけられています。背が高い建物ほど雷を受けやすいためです。20m以下でも、重要な設備がある建物などでは、任意で設けることがあります。
避雷針があればパソコンや家電も守れますか
直撃雷は避雷設備で守れますが、電線を伝ってくる雷サージまでは防げません。機器を守るには、電線の入口などにSPD(避雷器)を設ける内部雷保護が別に必要です。両方そろって初めて安心です。
避雷設備に点検は必要ですか
必要です。引下げ導線の断線やゆるみ、接地の劣化があると、いざというとき雷電流を逃がせません。SPDも寿命があり交換が必要です。ふだん使わない設備だからこそ、定期的な点検が欠かせません。
