建築の施工図の中で、もっとも「やり直しがきかない」図面が躯体図です。躯体とは、柱・梁・床・壁といったコンクリートの構造体そのもの。この図面が間違っていると、固まったコンクリートを削るか、壊してやり直すしかありません。
今回はアッシュくんが、建物の設計にくわしいさと吉先生に、躯体図の役割と意匠図との違いを教わります。「打つ前に決めきる」という建築のきびしさが、いちばんはっきり表れる図面です。
躯体図は「コンクリートの型」を描いた図面
さと吉先生、躯体図って何を描いた図面なの? ふつうの平面図とは違うの?
躯体図は、コンクリートそのものの形を描いた図面だ。柱がどこにどの太さで立つか、梁の高さはいくらか、床のレベルはどこか。そして忘れてはいけないのが、穴と埋め込み物の位置だね。
実際の工事では、この図面を見て型枠、つまりコンクリートを流し込む型をつくる。だから躯体図は「型枠をつくるための指示書」でもある。ドアや窓の開口、設備配管を通すためのスリーブ、天井を吊る金物を埋め込むインサート。これらをすべて型枠の段階で仕込んでおかないといけない。
コンクリートは水と反応して石になる材料だから、いったん固まったら形は変えられない。だから躯体図の合言葉は「打つ前に決めきる」なんだよ。
型枠をつくるための図面か! 固まったら直せないって、緊張感がすごいね。
コンクリートが水と反応して固まるしくみはコンクリートはなぜ固まる、構造の種類ごとの考え方は建物の構造種別の基礎入門で解説しています。
意匠図との違いは「仕上げの前か後か」
初めて躯体図を見た人が戸惑うのが、寸法が意匠図と一致しないことです。これは間違いではなく、測っている場所が違うためです。
| 意匠図(平面図) | 躯体図 | |
|---|---|---|
| 示す寸法 | 仕上げ後の部屋の寸法 | コンクリートの寸法 |
| 含むもの | 壁の仕上げ材、床材まで | 構造体だけ |
| 目的 | できあがりの姿を決める | 型枠をつくる |
| 穴の情報 | ドア・窓の位置 | ドア・窓+設備スリーブ+箱抜き |
たとえば意匠図で「内法3,000ミリの部屋」と決めたなら、躯体図ではその内側に付く仕上げの厚みを足した寸法でコンクリートを打たなければなりません。仕上げ厚を見落とすと、できあがった部屋が図面より狭くなってしまいます。躯体図を描く作業は、この足し引きを1か所ずつ確かめていく仕事でもあるのです。
アッシュくんメモ:意匠図は「完成したときの姿」、躯体図は「服を着る前の体」。同じ部屋でも、測っている場所が違うから寸法が変わるんだね!
躯体図に集まる3つの「穴」
躯体図がとくに緊張するのは、穴の情報を集めるところです。
- 開口:ドア、窓、階段の吹抜けなど、意匠と構造で決まる大きな穴です
- スリーブ:設備の配管や電線を通すための筒。給排水、空調、電気のすべての担当から位置が上がってきます。梁を貫通する場合は、構造設計者が認める位置と大きさの範囲で決めなければなりません
- 箱抜き・インサート:後の工事で使う凹みや、天井や配管を吊るための金物の埋め込み。細かいけれど数が多く、抜けやすい情報です
これらは意匠・構造・電気・機械のあらゆる担当者から集まります。つまり躯体図は、天井の納まりを決める総合図と並ぶ、もう一つの「持ち寄って決める図面」なのです。梁とダクトがぶつかる干渉の考え方は干渉とは、天井側の調整は総合図とはでくわしく解説しています。
後から穴を開けるのは何が問題なのか
もし配管の穴を忘れちゃったら、あとから開ければいいんじゃないの? ドリルで穴を開ける機械があるんでしょ?
できないわけじゃない。コア抜きといって、円筒状の刃で穴を開ける工法がある。でも代償が大きいんだ。
まず鉄筋の問題。コンクリートの中には鉄筋が縦横に走っている。穴を開ける場所に鉄筋があれば、切ってしまえば構造の性能が落ちる。だから事前に鉄筋の位置を機械で探査して、避けられる場所を探すことになる。避けられなければ、そもそも開けられない。
次に構造の制約。とくに梁は建物を支える大事な部材だから、位置や大きさに条件がある。設計時なら計算に織り込めるけれど、できあがった後では検討のやり直しになる。
そして費用と工期。探査、検討、承認、施工と手順が増える。忘れなければ型枠に筒を1本仕込むだけで済んだ話が、何倍もの手間になるんだ。だから躯体図の締め切りは、工事のどの締め切りよりも重く扱われるんだよ。
躯体図が読めると何が分かるか
- 建物の骨格:柱と梁の位置と大きさが分かるので、どこが動かせない場所かが見えます
- 天井裏の余裕:梁の高さと床のレベルから、設備が通せる天井懐の寸法が読み取れます
- 改修の可能性:既存建物の躯体図があれば、新しい設備の配管を通せる場所や、壁を抜ける範囲の判断材料になります
- スリーブの履歴:どこに何のための穴があるか。改修工事では、この情報が調査費を大きく節約してくれます
施工図の種類の全体像は建築施工図の種類を完全網羅、設計図との違いは建築施工図とはをどうぞ。
建物って、コンクリートを打つその日までに、すべてを決めきらないといけないんだね。あの日に間に合わせるために、みんな図面を握りしめてたんだ。
建築には、やり直せる工程とやり直せない工程がある。壁紙は張り替えられるし、照明器具も交換できる。でもコンクリートは一度きりだ。だから設計者はいつも「後で変えられるか」を意識して、変えられない部分から順に決めていく。この順番の感覚が身につくと、図面の締め切りの重さの違いまで見えてくるよ。
まとめ:打つ前に決めきるための図面
- 躯体図はコンクリートの構造体そのものの形と寸法を示す施工図。型枠をつくるための指示書
- 意匠図は仕上げ後の寸法、躯体図はコンクリートの寸法。仕上げ厚の足し引きが必要
- 開口・スリーブ・箱抜きとインサートという3種類の穴と埋め込みが集まる
- 後からのコア抜きは鉄筋・構造・費用・工期の面で代償が大きい。だから打設前に決めきる
- 読めれば建物の骨格、天井裏の余裕、改修の可能性まで判断できる
おさらいクイズ
さと吉先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
-
躯体図が描いているものは?
- 仕上げ材の色や柄
- コンクリートの構造体の形と寸法、穴や埋め込みの位置
- 家具の配置
正解は構造体の形と寸法。型枠をつくるための図面なので、開口やスリーブ、インサートの位置まで含みます。
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躯体図と意匠図で寸法が違う理由は?
- どちらかが間違っている
- 縮尺が違うから
- 意匠図は仕上げ後、躯体図はコンクリートの寸法を示しているから
正解は3番。測っている場所が違います。仕上げ厚の足し引きを1か所ずつ確かめるのが躯体図を描く仕事の一部です。
-
コンクリート打設後に穴を開ける(コア抜き)のが避けられる理由は?
- 鉄筋を切る恐れがあり、構造の検討や費用・工期の負担も大きいから
- 音がうるさいから
- 穴の形が丸くなるから
正解は1番。鉄筋の探査や構造の再検討が必要になり、型枠に筒を仕込むだけだったはずの作業が何倍もの手間になります。
よくある質問
躯体図は構造図と同じものですか?
違います。構造図は構造設計者が「どれだけの力に耐える部材が必要か」を示す設計図です。躯体図はそれを受けて、施工者が実際に型枠を組めるように、寸法や穴の位置まで具体化した施工図です。構造図が要求、躯体図が実現の手順書という関係になります。
木造や鉄骨造にも躯体図はありますか?
コンクリートを打つ部分(基礎など)には躯体図が必要です。鉄骨造では鉄骨の製作図や建方図が中心になり、木造では基礎図と各種の伏図が同じ役割を担います。呼び名が変わっても「構造体をどうつくるかを具体化した図面」という位置づけは共通です。
スリーブの位置は誰が決めるのですか?
設備の各担当が必要な位置を出し、構造設計者が可否を判断し、施工者が躯体図にまとめます。1人で決められる情報ではないため、締め切り前の調整会議が欠かせません。ここで漏れた1本が、後のコア抜きにつながります。
マンションの購入時に躯体図を見ることはできますか?
竣工図として管理組合が保管しているのが一般的です。個人がすぐ閲覧できるとは限りませんが、リフォームを検討するときには重要な資料になります。壁を抜けるか、配管を通せるかといった判断の根拠が、この図面に残っています。
躯体図の締め切りが厳しいのはなぜですか?
工事の進行が待ってくれないためです。鉄筋を組み、型枠を建て、コンクリートを打つという流れは日程で押さえられています。躯体図の決定が遅れると、その先の全工程が止まるか、決めきらないまま打設してしまうことになります。建築の工程で最初に来る大きな山場が、この図面なのです。
