建築の世界で「設備の人が足りない」という声を聞くことが増えました。図面を描ける人はいても、基本計画から実施設計まで通せる人、公共案件の作法を知っている人、調整を仕切れる人が見つからないという悩みです。

今回はアッシュくんが、電気にくわしいのりめぇる先生に、なぜ設備設計者が足りないのかという構造の話を聞きます。そしてその裏返しとして、経験を積んだ技術者がどう評価されるのかも見ていきます。

不足は「人数」ではなく「経験」の不足

アッシュくん

のりめぇる先生、設備設計の人が足りないってよく聞くけど、どうしてなの?

のりめぇる先生

正確に言うと、足りないのは頭数じゃなくて経験なんだ。設備設計は、覚えることが図面の描き方だけでは済まない仕事だからね。

熱や電気の理屈を理解して、法令や基準を読み、建物の使われ方を想像して容量を決める。そのうえで意匠や構造と調整し、書類を整え、工事の段階では現場からの質問に答える。この一連を通せるようになるまでに、どうしても年数がかかる。

しかもこの力は、教科書だけでは身につかない。実際の案件を通して、判断して、結果を見る。この繰り返しでしか育たない部分がある。つまり設備設計者は「短期間で増やせない職種」なんだ。だから需要が動いたとき、供給がすぐには追いつかない。

アッシュくん

時間をかけないと育たない力だから、急に増やせないんだね。経験そのものが希少なのか。

不足を生んでいる4つの要因

  1. 世代の偏り:長く現場を支えてきた層が引退の時期に入り、その経験が一度に抜けていきます。引き継ぎには時間が必要ですが、その時間を確保しづらいのが現実です
  2. 職業としての認知の薄さ:建築を志す人の多くは意匠設計を思い描きます。設備設計という仕事の存在や面白さが、進路を決める段階で伝わりにくい構造があります
  3. 育成に時間がかかる:一人で案件を通せるようになるまでの期間が長く、その間の指導も経験者が担います。つまり育てる側の負荷も経験者に集中します
  4. 需要の増加:省エネや脱炭素の要求、設備の高度化、既存建物の改修や更新。設備設計が関わる場面はむしろ増えています。将来性については電気設備設計の将来性と需要で解説しています

この4つが重なると、需要が増える一方で経験者が減るという構図になります。業界側の対策としては、外注や協力体制の活用、道具による効率化などが進められています。くわしくは建築設備設計の課題と解決策をどうぞ。

アッシュくんメモ:「育てるのに時間がかかる」「その指導も経験者がやる」という二重構造がポイントなんだね。経験者の時間はいつも足りないんだ。

だから経験者は何で評価されるのか

アッシュくん

経験者が求められているのは分かったけど、具体的にどんな力が見られているの?

のりめぇる先生

資格や年数はもちろん見られるけれど、実際に決め手になるのは「何をどこまで一人で通せるか」だ。

たとえば、条件が曖昧な段階から与条件を整理して方針を立てられるか。容量計算の根拠を説明できるか。意匠や構造と折り合いをつけて納まりを決められるか。書類を一式そろえられるか。工事段階の質問に答えられるか。

もうひとつ大きいのは、初めての条件に当たりをつけられることだね。設備設計では毎回違う建物が来る。過去の経験がそのまま使える案件はない。それでも「この規模でこの用途なら、だいたいこのあたり」という感覚を持っている人は、検討の出発点を素早く置ける。この感覚こそ、年数をかけないと手に入らないものなんだ。

経験を言葉にする棚卸しのやり方

自分の経験を評価してもらうには、まず自分で整理できていることが前提になります。次の軸で書き出すと、市場から見た自分の姿がはっきりします。

書き出す内容
用途庁舎、学校、病院、事務所、工場、商業施設など
規模延床面積、階数、受電の規模
担当範囲基本計画、実施設計、積算、監理のどこを担ったか
役割担当者か、まとめる立場か、指導も担ったか
発注者公共か民間か。公共なら国か自治体か
難所解決に苦労した具体的な場面と、その解き方

とくに最後の「難所」が効きます。設備設計は問題解決の仕事なので、難しい条件をどう解いたかという具体例が、そのまま実力の証明になります。「あのとき天井懐が足りずに、ルートをこう組み替えた」といった話は、聞く側にとって何よりの判断材料です。

資格はどう位置づけるか

資格は経験を裏づける材料であり、単独で仕事を保証するものではありません。ただし公共案件では技術者の要件として資格が問われる場面があり、持っていることが前提になる役割もあります。

資格全体の選び方は電気設備設計に役立つ資格ガイドで整理しています。

アッシュくん

時間をかけないと育たないから、育った人がすごく大事にされるんだね。地道に積んできた人がちゃんと報われる仕事なんだ。

のりめぇる先生

そこがこの仕事のいいところだと思うよ。流行に左右されず、積み上げたものがそのまま力になる。しかも設備は建物が使われ続けるかぎり必要とされる。派手さはないけれど、代わりのきかない技術者になれる道が、この分野にはちゃんとあるんだ。もし自分の経験を過小評価している人がいたら、一度棚卸しをしてみてほしい。思っている以上に、その経験は求められているよ。

まとめ:時間でしか育たない力だから価値がある

  • 設備設計の不足は頭数ではなく経験の不足。短期間で増やせない職種だから需要に追いつかない
  • 要因は世代の偏り、職業の認知の薄さ、育成に時間がかかること、需要そのものの増加
  • 評価の決め手は「何をどこまで一人で通せるか」。初めての条件に当たりをつけられる感覚が希少
  • 経験は用途・規模・担当範囲・役割・発注者・難所の6軸で棚卸しすると言葉になる
  • 難所をどう解いたかという具体例が、いちばん強い実力の証明になる
  • 資格は経験を裏づける材料。公共案件では技術者の要件として問われる場面もある

おさらいクイズ

のりめぇる先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。

  1. 設備設計者の不足の本質は?

    • 資格試験が難しすぎること
    • 設備の種類が減ったこと
    • 短期間では育たない経験そのものが足りないこと

    正解は経験の不足。実際の案件を通して判断を重ねることでしか身につかない力があるため、需要が動いても供給がすぐには追いつきません。

  2. 経験者の評価でいちばん決め手になるのは?

    • 何をどこまで一人で通せるか
    • 在籍した会社の知名度
    • 持っている資格の数だけ

    正解は担当できる範囲。与条件の整理から容量の根拠、調整、書類の整備、工事段階の対応まで、通せる範囲が実力として見られます。

  3. 経験の棚卸しでとくに効くのは?

    • 勤続年数の長さだけ
    • 難しい条件をどう解いたかという具体例
    • 使ったソフトの名前だけ

    正解は解決の具体例。設備設計は問題解決の仕事なので、難所の解き方がそのまま実力の証明になります。

よくある質問

50代からでも転職の選択肢はありますか?

経験そのものが希少な領域なので、年齢より「任せられる範囲」が問われる傾向があります。基本計画から通せる、公共の作法を知っている、若手を育てられる。こうした要素はむしろ年数を重ねた人に強みがあります。加えて業務委託や協力事務所という関わり方もあり、働き方の幅は広がっています。

ブランクがある場合はどう見られますか?

基礎の考え方は変わりませんが、法令や基準は改定され、ツールも進化しています。復帰にあたっては最新の状況を確認し、最初の案件を経験者と組んで通すのが現実的です。過去の経験が消えるわけではないため、更新すべき部分を明確にして臨むのが有効です。

意匠設計から設備設計へ移ることはできますか?

可能ですが、学び直しの量は相応にあります。一方で意匠の経験者は、建物全体の使い方や納まりの感覚を持っているという強みがあります。設備と意匠の調整は設計の中で最も摩擦が起きやすい部分なので、両方の言語が分かる人は貴重です。

若手が育つまでどのくらいかかるのですか?

案件の規模や関わり方によって大きく変わるため、一律の年数は言えません。ただし多くの現場で共通しているのは、複数の案件を最初から最後まで通した経験が転機になるという点です。部分的な作業だけを繰り返す期間が長いと、通せる力は育ちにくくなります。

経験者が転職先を見るときの着眼点は?

案件の構成、体制と分担、繁忙の波、そして裁量の具体的な中身です。とくに「その事務所で自分が何を任されるのか」を具体的な場面で確認することが失敗を防ぎます。大手と中小の違いは大手から中小設計事務所へで整理しています。