マンションの上階まで水が届くのも、地下にたまった雨水がくみ上げられるのも、ポンプが働いているからです。給排水の記事で出てきた加圧ポンプや排水ポンプも、その仲間です。ふだんは機械室の奥で静かに回っていて、意識することは少ない設備です。
この記事では、機械設備シリーズの深掘り編として、ポンプの基礎を整理します。代表的な渦巻ポンプのしくみ、能力を表す揚程、建物での使われ方、そして注意すべきキャビテーションまで、初心者にも分かるように順番に解説します。
ポンプとは(液体に力を与えて動かす機械)
ポンプとは、水などの液体にエネルギーを与えて、低い所から高い所へ持ち上げたり、遠くへ押し出したりする機械です。水は自然には高い所へ流れないため、上の階へ水を届けたり、地下から排水したりするには、ポンプの力が欠かせません。
建物の中では、給水の圧力を上げる、たまった排水をくみ出す、空調の冷たい水や温かい水を循環させる、といった多くの場面でポンプが使われています。前回の給排水の記事で登場した受水槽方式の加圧ポンプや、増圧ポンプも、まさにこのポンプです。目立たない機械ですが、建物のライフラインを支える心臓のような存在といえます。
ポンプを動かすのはモーター(電動機)です。つまりポンプは、電気のエネルギーを水を動かす力に変える装置ともいえます。電気設備と機械設備がつながる場面でもあり、消費電力や運転音、電源の確保も設計では大切な検討事項になります。
もっとも多い渦巻ポンプのしくみ
ポンプはしくみで大きく2つに分けられます。羽根車を回して勢いを与えるターボ形と、ピストンや歯車で液体を押し出す容積形です。建物設備で使われるのは、ほとんどがターボ形の代表である渦巻ポンプです。まずはこの渦巻ポンプを押さえれば、建物のポンプの大半が理解できます。
建物で最もよく使われるのが渦巻ポンプ(遠心ポンプ)です。羽根車(インペラ)と呼ばれる部品を高速で回し、その遠心力で水に圧力と速度を与えて押し出します。洗濯機の脱水のように、回転で中身が外側へ飛ばされる力を利用していると考えると分かりやすいでしょう。
水は羽根車の中心から吸い込まれ、回転によって外周へと勢いよく飛ばされ、渦巻状のケーシング(外殻)を通って吐出口から出ていきます。構造がシンプルで壊れにくく、水量を多く流せるのが特長で、一般に低揚程多水量形(それほど高く上げないが、たくさん流せる)のポンプです。
羽根車が1枚のものを単段、複数の羽根車を連続して並べたものを多段ポンプと呼びます。多段にすると水を段階的に押し上げられるため、より高い所まで送れます。高層建物のように高く上げたい場合は多段、たくさん流したい場合は単段、というように使い分けます。
ポンプの能力を表す「揚程」
ポンプを選ぶときにいちばん大切な数字が揚程(ようてい)です。揚程とは、ポンプが水をくみ上げる能力のことで、単位はメートル(m)で表します。揚程が大きいほど、より高い所まで水を送れます。
揚程には2つの見方があります。ひとつは実揚程で、これは水面から吐き出す地点までの、実際の高さの差(高低差)です。もうひとつは全揚程で、実揚程に配管の中で失われる分を足したものです。式で書くと次のようになります。
全揚程 = 実揚程 + 損失水頭(配管の抵抗)
損失水頭とは、水が配管の中を流れるときに、管の摩擦や曲がり、弁などで失われる圧力を高さに置きかえたものです。配管が長かったり曲がりが多かったりすると損失が増えるため、同じ高さへ送るのでも、より大きな全揚程が必要になります。ポンプ選びで高低差だけを見て損失を忘れると、いざ動かしたとき水が届かない、という失敗につながります。
建物で使われるポンプの種類
建物では、役割ごとにいろいろなポンプが使われています。代表的なものを整理しておきましょう。
| 用途 | 役割 |
|---|---|
| 給水加圧ポンプ | 水道や受水槽の水を、必要な階や水栓まで十分な圧力で届ける |
| 排水ポンプ | 地下など、自然には流せない場所にたまった排水をくみ上げる。水中ポンプが多い |
| 循環ポンプ | 空調の冷水や温水、給湯を建物内でぐるぐる循環させる |
| 消火ポンプ | 火災時にスプリンクラーや消火栓へ水を送る、防災用のポンプ |
とくに地下の排水槽などでは、汚れた水を直接くみ上げられる水中ポンプがよく使われます。水中ポンプも渦巻ポンプの仲間で、水にもぐった状態で運転できるのが特長です。用途に応じて、必要な揚程と水量を満たすポンプを選びます。
同じ渦巻ポンプでも、給水のように圧力(高さ)を重視する用途と、排水のように水量やゴミへの強さを重視する用途では、選ぶポンプの性格が変わります。何を優先するかを見きわめて選ぶことが、設計の腕の見せどころです。
注意すべき「キャビテーション」
ポンプで気をつけたい現象にキャビテーションがあります。これは、ポンプが水を吸い込む側で圧力が下がりすぎたときに、水の中に小さな気泡(水蒸気の泡)が発生し、その泡が圧力の高い所で一気に潰れる現象です。
泡が潰れる衝撃は非常に強く、羽根車の表面を少しずつ削り取ったり、振動や異音を起こしたり、ポンプの性能を落としたりします。放っておくとポンプの寿命を縮める、やっかいなトラブルです。
防ぐための基本は、吸い込み側の圧力を下げすぎないことです。具体的には、ポンプを水面に対してあまり高い位置に置かない、吸い込み側の配管を短く太くして抵抗を減らす、といった配慮をします。吸い込みに無理をさせない、というのがポンプ設置の大切な考え方です。
アッシュくんメモ:キャビテーションが起きているポンプは、砂利をかんだようなジャリジャリした音がすることがあるよ。「吸い込みで無理をさせない」と覚えておくと、原因を探すときに役立つね。
ポンプのメンテナンスと注意点
ポンプは可動部を持つ機械なので、長く使うには点検と手入れが欠かせません。おさえておきたいポイントは次のとおりです。
- 空運転をさせない:水がない状態で回すと、冷却や潤滑ができず、軸まわりの部品が一気に傷みます。水位を検知して自動で止めるしくみが使われます。
- 軸まわりの点検:水漏れを防ぐメカニカルシールや、回転を支える軸受は消耗部品です。異音や水漏れが出たら早めに点検します。
- 逆流を防ぐ:ポンプを止めたときに水が逆戻りしないよう、配管に逆止弁を入れます。逆流はウォーターハンマー(衝撃音)の原因にもなります。
- 予備機の考え方:給水や排水など止められない用途では、ポンプを2台備えて交互に運転したり、故障時に自動で切り替えたりします。
止まると生活に直結する設備だからこそ、日ごろの点検と、いざというときの備えが重要になります。
まとめ:ポンプの基礎を押さえる
- ポンプは液体に力を与えて、高い所へ上げたり遠くへ送ったりする機械。建物の給水・排水・空調循環に不可欠。
- 代表は渦巻ポンプ。羽根車の遠心力で水を押し出す、シンプルで多水量向きの形式。多段にすると高くまで送れる。
- 能力は揚程(m)で表す。全揚程=実揚程+損失水頭。配管の抵抗も見込んで選ぶ。
- 用途別に給水加圧・排水(水中ポンプ)・循環・消火などがある。
- 吸い込み側の圧力低下で起きるキャビテーションに注意。ポンプは低めに、吸い込み配管は短く太く。
おさらいクイズ
この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
-
ポンプの揚程が表すものは?
- どれだけ高く強く水を送れるか
- 1分あたりの水量
- 消費電力
正解は高さ(強さ)。どれだけ多く送れるかを表すのは吐出量です。
-
建物で最も多く使われるポンプはどれ?
- 往復ポンプ
- 渦巻ポンプ
- 歯車ポンプ
正解は渦巻ポンプ。構造がシンプルで丈夫、水量を多く流せて価格も手ごろです。
-
気泡がつぶれる衝撃で羽根車を傷める現象は?
- サージング
- ウォーターハンマー
- キャビテーション
正解はキャビテーション。吸い込み条件を見直して起こさないようにします。
よくある質問
ポンプの「揚程」と「吐出量」はどう違うのですか
揚程はどれだけ高く(強く)水を送れるかを表し、吐出量はどれだけ多くの水を送れるか(1分あたりの量など)を表します。ポンプ選びでは、必要な高さと必要な水量の両方を満たす機種を選びます。
なぜ渦巻ポンプがいちばん多く使われるのですか
構造がシンプルで壊れにくく、水量を多く流せて、価格も手ごろだからです。給水から排水、空調まではば広い用途に対応でき、建物設備の主役になっています。
キャビテーションが起きるとどうなりますか
気泡が潰れる衝撃で羽根車が傷み、振動や異音、性能低下を招きます。長く続くとポンプの寿命を縮めるため、吸い込み条件を見直して起こさないようにすることが大切です。
ポンプは1台あれば十分ですか
用途によります。止められない給水や排水では、故障や点検に備えて2台備え、交互運転や自動切り替えを行うのが一般的です。重要度に応じて予備を持たせます。
