建物は完成した瞬間から古くなり始めます。とくに設備は、動く部品と水や電気が関わるため、建築の躯体よりずっと早く更新の時期が来ます。ではその時期はどう判断すればよいのでしょうか。
今回はアッシュくんが、建物の設計にくわしいさと吉先生に、設備の寿命と更新の考え方を教わります。「壊れたら替える」から一歩進んだ視点が身につきます。
法定耐用年数と、実際に使える年数は別物
さと吉先生、設備の耐用年数って決まってるの? 何年で交換しなさい、みたいな数字があるのかな。
ここは混同されやすいところだね。「耐用年数」という言葉には、性格の違う2つの意味がある。
ひとつは法定耐用年数。これは税金の計算のために国が定めた年数で、設備の価値を何年で費用として配分するかという会計上の決まりだ。だから「この年数が過ぎたら使えない」という意味ではまったくない。
もうひとつが、実際に使える年数だ。こちらは機器の種類、使われ方、置かれた環境、そして点検や整備をどれだけ丁寧にしてきたかで大きく変わる。同じ機種でも、24時間運転の建物と週末だけ動く建物では傷み方が違うし、海沿いの塩害を受ける場所と内陸でも差が出る。
だから設備の更新は、年数だけで決められるものじゃない。年数は目安の入口で、そこに状態の確認を重ねて判断するんだよ。
税金の年数と実際の寿命は別なんだ! 数字がひとり歩きしそうな話だね。
設備ごとに更新の周期は違う
実務では、機器の種類ごとにおおよその目安が語られます。ただしこれは幅のある話で、状態次第で前後します。
| 設備 | 更新が話題になり始める時期の傾向 | 状態の見どころ |
|---|---|---|
| 空調の機器 | 比較的早い | 能力の低下、異音、部品の供給状況 |
| ポンプ類 | 比較的早い | 異音、振動、水漏れ、消費電力の増加 |
| 受変電設備 | 長め | 絶縁の測定値の推移、変色、部品の劣化 |
| 配管 | 材質により大きく違う | 漏水の履歴、内部の詰まりや腐食 |
| 昇降機 | 長め | 制御装置の世代、部品の供給状況 |
とくに見落とされやすいのが、いちばん右の「部品の供給状況」です。機器そのものが動いていても、故障したときの交換部品がすでに製造されていなければ、修理ができません。メーカーが部品の保有期間を終えた機器は、実質的に更新の対象になります。
アッシュくんメモ:「動いてるから大丈夫」じゃなくて「壊れたときに直せるか」も寿命の一部なんだね。それは考えたことなかった!
壊れてから替えるか、計画して替えるか
まだ動いているものを替えるのは、もったいない気もするけど。
自然な感覚だね。ただ、壊れてから対応する場合の代償を並べてみると、見方が変わるはずだ。
まず時間だ。故障してから機器を選び、発注し、製作を待ち、工事の段取りを組む。その間ずっと設備は使えない。夏に空調が止まったら、業務も暮らしも止まってしまう。
次に選択の自由がなくなる。急いでいるから、いま手に入るもので決めることになる。省エネ性能の高い機種をじっくり比べる余裕はない。
そして工事の条件も悪くなる。建物を使いながらの工事は、休日や夜間の作業になりがちで、費用も上がる。計画的なら、繁忙期を避けた時期を選べる。
だから設備の世界では、計画的に替えていく考え方が主流になってきた。壊れる前に、余裕のある時期に、良い機種を選んで替える。もったいないように見えて、実は損が小さいんだよ。
更新は「省エネの機会」でもある
更新にはもうひとつ、見逃せない側面があります。設備の省エネ性能は年々進んでいるため、古い機器を替えるだけで消費エネルギーが下がることがあるのです。
- 照明:従来の光源からLEDへの更新は、消費電力を大きく下げます。考え方はLED照明と省エネの基礎入門で解説しています
- 空調:熱源機や空調機の効率は世代で差があります。運転時間の長い建物ほど効果が表れます
- ポンプやファン:回転数を制御する方式に替えることで、必要な分だけ動かす運転ができます
- 制御の追加:機器そのものを替えなくても、運転を管理する仕組みを整えることで無駄を減らせます。BEMSの基礎入門をどうぞ
つまり更新は、単なる原状回復ではなく建物の性能を上げる機会でもあります。使い方が変わった建物なら、そもそも必要な能力が変わっている可能性もあります。竣工時の想定と現在の使い方を比べることが、適切な更新の出発点です。
更新のときに困るのは「図面がないこと」
実務で更新工事を検討するとき、最初の壁になるのが資料の不足です。
- 竣工図が見つからない:どこにどの配管が通っているか分からず、調査からやり直すことになります
- 改修の履歴が残っていない:過去に機器を替えたのに図面が更新されておらず、現物と図面が一致しません
- 機器の仕様が分からない:能力や電源が不明だと、後継機の選定に手間がかかります。機器表の役割は機器表とはで解説しています
- 搬入経路が読めない:新しい機器を運び込めるかどうかの判断に、躯体の寸法が必要になります。躯体図とはもどうぞ
資料がそろっている建物は、更新の検討が早く、無駄な調査費もかかりません。逆に言えば、日々の記録を残しておくことが、10年後の自分たちを助けます。工事のたびに図面を更新するという地味な作業が、建物の資産価値を守っているのです。
「壊れてから」じゃなくて「壊れる前に」なんだね。図面を残しておくことが将来の自分を助けるって話も、じんときたよ。
建物は何十年も使われるものだから、設計や工事に関わる人は必ず入れ替わる。そのときに残るのは、図面と記録だけなんだ。だから設備の仕事には、いつも「次に触る誰か」への配慮が求められる。地味だけれど、そこに誠実でいられるかどうかが、建物の一生を左右するんだよ。
まとめ:年数より状態、そして計画
- 法定耐用年数は税務上の決まりで、実際に使える年数とは別物
- 実際の寿命は機器の種類、使われ方、環境、点検の丁寧さで大きく変わる
- 交換部品の供給が終わっていれば、動いていても実質的に更新の対象になる
- 壊れてから替えると、停止期間・選択の自由・工事条件のすべてが不利になる
- 更新は省エネ性能を上げる機会。使い方の変化に合わせて必要な能力も見直す
- 竣工図と改修の履歴がそろっている建物は、更新の検討が早く費用も抑えられる
おさらいクイズ
さと吉先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
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法定耐用年数とはどんな年数?
- これを過ぎたら使えなくなる年数
- メーカーが保証する年数
- 税金の計算のために国が定めた会計上の年数
正解は3番。会計上の決まりであり、実際に使える年数とは別です。混同すると判断を誤ります。
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機器が動いていても更新が必要になる場合とは?
- 交換部品の供給が終わり、故障時に修理できない
- 色が古く見える
- 取扱説明書をなくした
正解は部品の供給。直せない機器は、壊れた時点で建物の機能が止まります。寿命には「直せるかどうか」も含まれます。
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計画的に更新する利点として正しいのは?
- 工事費が必ず無料になる
- 停止期間を短くでき、機種をじっくり選べて工事時期も選べる
- 点検が不要になる
正解は2番。故障後の対応では、選択の自由も工事条件も不利になります。余裕のある時期に替えるほうが結果的に損が小さくなります。
よくある質問
マンションの長期修繕計画には設備も入っていますか?
入っています。給排水の配管、ポンプ、受変電設備、昇降機などが対象になり、時期と概算の費用が計画に盛り込まれます。計画は定期的に見直されるもので、実際の劣化の状況に合わせて時期が前後します。総会の資料に目を通しておくと、住まいの将来の姿が見えてきます。
点検で「まだ使える」と言われました。それでも替えるべきですか?
すぐに替える必要はありませんが、状態の記録を残し始める時期です。絶縁の測定値や振動、消費電力の推移といった数字が悪化の傾向を示していれば、更新の準備に入る判断材料になります。突然の故障を避けるには、傾向を見ておくことが有効です。
部分的な修理と全体の更新、どちらを選ぶべきですか?
残りの使用予定期間と、修理を繰り返す費用の合計で比べるのが基本です。あと数年で建物を大きく改修する予定があるなら修理で持たせる判断もありますし、この先20年使うなら早めの更新が合理的です。建物をいつまでどう使うのかという方針が、判断の土台になります。
更新工事は建物を使いながらできますか?
多くの場合できますが、工程の工夫が必要です。系統ごとに順番に切り替える、休日や夜間に作業する、仮設の設備で機能をつなぐといった方法が取られます。そのぶん計画に時間がかかるため、余裕のある時期から検討を始めることが大切です。
竣工図が見つからない場合はどうすればいいですか?
まず管理者や過去の施工会社、設計事務所に問い合わせてみてください。それでも見つからない場合は、現地調査で図面を作り起こすことになります。手間はかかりますが、一度作っておけば以後の改修で繰り返し役立ちます。作成した図面は、次の工事のときに必ず更新するようにしてください。
