建物が完成すると、設計者や工事会社から分厚い図面の束が引き渡されます。その中に「竣工図」と書かれた一式があります。設計図はすでにあるのに、なぜもう一度図面を作るのでしょうか。そして、その図面は何十年も保管する価値があるのでしょうか。
今回はアッシュくんが、意匠設計にくわしいさと吉先生に、竣工図とは何か、設計図や施工図とどう違うのかを教わります。
結論から言うと、竣工図とは工事が終わった時点で「建物が実際にどう造られたか」を記録した図面です。設計図は「こう造る予定」を示す図面、施工図は「こう造るために現場で使う」図面で、竣工図は「こう造った」という結果の記録です。工事中には設計の変更や現場での調整が必ず起きるため、設計図のままでは実際の建物と食い違います。竣工図はその食い違いを修正した最終の姿であり、将来の改修や設備更新、不具合の調査でいちばん頼りになる資料になります。だから建物の所有者は必ず受け取り、紙と電子データの両方で保管しておくべきものです。
設計図、施工図、竣工図はどう違うのか
さと吉先生、設計図があるのに、完成したあとにまた図面を作るの? 同じものにならない?
同じにはならないんだ。図面には、作られる時期と目的によって3つの段階がある。最初が設計図。設計者が「この建物をこう造る」という計画を描いたもので、工事の契約や役所の確認に使う。次が施工図。工事会社が設計図をもとに、現場で職人が実際に作業できる細かさまで描き直したものだ。柱と壁の正確な位置、配管が梁をどこで抜けるか、天井の中で何がどう重なるかまで決める。
そして工事が進むうちに、設計図のとおりにはいかない場面が必ず出てくる。地面を掘ったら想定と違った、施主の希望で間取りが少し変わった、指定の部材が手に入らず同等品に替えた、配管の経路を現場で調整した。こうした変更をすべて反映して、完成した建物の姿を描き直したものが竣工図だ。
つまり、設計図は「予定」、施工図は「作業の手順書」、竣工図は「結果の記録」。同じ建物の図面でも、役目が違うから中身も違うんだよ。
予定と、手順書と、結果。旅行でいうと、計画表と、当日の行程表と、実際に行った場所の記録みたいな感じかな。
| 図面 | 作る人 | 作る時期 | 役目 |
|---|---|---|---|
| 設計図 | 設計者 | 工事の前 | 建物の計画を示す。契約と確認申請の根拠 |
| 施工図 | 工事会社 | 工事中 | 現場で作業できる細かさに描き直す。取り合いを解決する |
| 竣工図 | 工事会社(設計者が確認) | 工事の完了時 | 実際に造られた姿を記録する。維持管理と改修の基礎資料 |
施工図がなぜ必要で、設計図と何が違うかは建築施工図とは?設計図との違いで、施工図にどんな種類があるかは建築施工図の種類を完全網羅で解説しています。
なぜ設計図のままではいけないのか
設計図と完成した建物が食い違う理由は、工事の性質そのものにあります。代表的なものを挙げます。
- 地中の条件:掘ってみたら地盤や埋設物が想定と違い、基礎の形や深さを変えた
- 施主の要望の変更:工事中に部屋の用途が変わり、間仕切りやコンセントの位置を動かした
- 部材の変更:指定した製品が製造中止や納期遅れで、同等の別製品に替えた
- 取り合いの調整:天井の中で配管とダクトと梁が当たるため、経路を現場で振り替えた
- 設備の機種決定:設計時は仮の機種で、工事の段階で正式な機種が決まり、寸法や接続位置が変わった
こうした変更は、小さなものは日々の打ち合わせで、大きなものは変更の指示書で記録されます。しかしそれらが何十枚もの紙に散らばったままでは、数年後に「この壁の中に何が通っているか」を調べることができません。竣工図は、散らばった変更を一枚の図面に集約して、建物の「現在の姿」をひとつにまとめる役目を持っています。
アッシュくんメモ:工事中の変更は、あちこちの紙に散らばっちゃうんだね。それを一枚の図面にまとめ直すのが竣工図。だから設計図を持っていても、竣工図の代わりにはならないんだ。
竣工図に含まれるもの
竣工図って、建物の形の図面だけ? それとも配線とか配管の図面も入ってるの?
全部入る。建築の図面、構造の図面、電気設備の図面、機械設備の図面、それぞれの竣工図が一式になる。むしろ、あとで役に立つのは設備の竣工図の方が多いくらいだ。
建築の竣工図には、配置図、各階の平面図、立面図、断面図、仕上げの表などがあり、壁や天井の中の下地や仕上げ材の種類まで分かる。構造の竣工図は、基礎や柱や梁の位置と寸法、鉄筋やボルトの情報が入る。電気の竣工図は、幹線の経路、分電盤の中身、照明やコンセントの回路の分け方、通信や火災報知の配線が分かる。機械の竣工図は、給水と排水の配管の経路と口径、ダクトの経路、空調機の位置と能力、弁の位置などが入る。
これに加えて、使った機器の一覧表、機器ごとの取扱説明書、保証書、試験の成績書などをまとめた完成図書が一緒に引き渡される。竣工図と完成図書がそろっていると、その建物のことは何でも調べられる状態になるんだ。
図面を開いたとき最初に見る場所は図面の凡例と表題欄の読み方で、電気の図面にどんな種類があるかは電気設備図面の種類入門で解説しています。
竣工図はいつ役に立つのか
竣工図は、引き渡しの日には出番がありません。役に立つのは、数年後、十数年後に何かが起きたときです。
- 設備の更新:給湯機や空調機を替えるとき、配管の経路と口径、電源の容量が分かれば、壁を開けずに計画が立てられる
- 間取りの変更:壁を抜きたいとき、その壁が構造を支えているか、中に配線や配管が通っているかが分かる
- 不具合の調査:水漏れや停電が起きたとき、どの配管、どの回路がどこを通っているかをたどれる
- 売却と賃貸:建物の状況を正確に示せることが、買い手や借り手の信頼につながる
- 災害後の確認:地震や水害のあと、構造のどこを点検すべきかの手がかりになる
竣工図がない建物では、これらのたびに壁や天井を開けて中を確かめる必要があり、調査の費用と時間が大きく増えます。設備の更新時期の考え方は設備の更新はいつで解説していますが、その計画の土台になるのが竣工図です。
竣工図の精度を高めるには
でも、竣工図が実際の建物と違ってることってないの? 直し忘れとか。
残念ながらある。竣工図は工事の最後にまとめて作ることが多く、工期の終わりは職人も監督も忙しい。工事中の小さな変更を記録し忘れていると、竣工図にも反映されない。とくに天井の中の配管の経路は、現場で少し動かしただけだと図面に残らないことがある。
精度を高めるコツは、工事中から「変更が起きたらその場で施工図に赤で書き込む」習慣を現場に根づかせることだ。この赤書きの施工図がそろっていれば、竣工図は最後にそれを清書するだけで済む。設計者が工事中に現場を確認する設計監理の仕事にも、この変更の記録を追いかける役目がある。
そして、施主の側でできることもある。引き渡しのときに竣工図を受け取り、設計図との主な違いを説明してもらうこと。そして紙の図面と電子データの両方を受け取って、火災や水害で失わないよう別の場所にも保管すること。図面は建物と同じ寿命を持つ資料だから、扱いも建物と同じくらい大切にしてほしい。
設計者が工事中に確認する役割は設計監理とはで、工事中の図面のずれが引き起こす問題は建築施工図のトラブル事例と対策で解説しています。
まとめ:竣工図は建物の「現在の姿」の記録
- 設計図は「予定」、施工図は「作業の手順書」、竣工図は「結果の記録」。同じ建物でも役目が違う
- 工事中には地中の条件、要望の変更、部材の変更、取り合いの調整で必ず設計図とのずれが生じる。竣工図はそれを集約する
- 建築・構造・電気・機械の図面すべてに竣工図があり、機器の一覧や取扱説明書と一緒に完成図書として引き渡される
- 役に立つのは数年後。設備更新、間取り変更、不具合調査、売却、災害後の点検で頼りになる
- 精度を高めるには工事中の赤書きの習慣が大切。施主は紙と電子データの両方を受け取り、別の場所にも保管する
おさらいクイズ
さと吉先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
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竣工図とはどんな図面?
- 設計者が工事の前に描く計画の図面
- 職人が現場で作業するための細かい図面
- 工事が終わった時点で、建物が実際にどう造られたかを記録した図面
正解は3番。設計図は予定、施工図は作業の手順書、竣工図は結果の記録です。工事中の変更をすべて反映した、建物の現在の姿を示します。
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設計図と完成した建物が食い違うのはなぜ?
- 地中の条件や要望の変更、部材の変更、現場での取り合いの調整が必ず起きるから
- 設計者が図面を間違えるから
- 職人が図面を見ないで作業するから
正解は1番。工事にはやってみないと分からないことが必ずあり、変更は工事の性質そのものです。だから設計図とは別に、結果を記録する竣工図が必要になります。
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建物の所有者が竣工図を受け取るときに大切なことは?
- 紙の図面だけ受け取って倉庫にしまう
- 紙と電子データの両方を受け取り、別の場所にも保管する
- 設計図があれば竣工図は受け取らなくてよい
正解は2番。竣工図は建物と同じ寿命を持つ資料です。火災や水害で失わないよう、紙と電子データの両方を別の場所に保管します。設計図は竣工図の代わりにはなりません。
よくある質問
竣工図は誰が作るのですか?
一般には工事会社が施工図をもとに作成し、設計者が内容を確認します。契約の中で竣工図の作成が工事会社の役目として定められていることが多いですが、規模や契約の形によって分担は変わります。引き渡し前に、誰が作り、いつ渡されるかを確認しておくとよいでしょう。
竣工図をもらっていない、または紛失した場合はどうすればよいですか?
まず工事会社か設計事務所に保管がないか問い合わせます。会社側で図面を保管していることは少なくありません。見つからない場合は、現地を調査して図面を作り直す方法があります。壁や天井の点検口からのぞいたり、機器を測ったりして現状を図面化する作業で、費用と時間はかかりますが、改修の前には有効です。
住宅でも竣工図はもらえますか?
もらえます。住宅では「完成図」や「引渡し図面」といった名前で渡されることもあります。分厚い一式でなくても、平面図、電気の配線図、給排水の配管図がそろっていれば、将来の修理や改修でとても役に立ちます。引き渡しのときに図面の一式が含まれているか確認し、なければ依頼してください。
竣工図と確認申請の図面は同じですか?
違います。確認申請の図面は工事の前に役所へ提出する設計図で、法律に適合しているかを審査するためのものです。工事中に変更があれば、その内容によっては役所への手続きも必要になりますが、竣工図はそれとは別に、実際に造られた姿を記録するために作られます。
電子データはどんな形式で受け取るのがよいですか?
誰でも開ける形式と、編集できる形式の両方をもらうのが理想です。閲覧用の形式は将来どんな環境でも開けますし、設計に使った元の形式があれば、改修のときに図面を書き足すことができます。データの保存先は自宅のパソコンだけでなく、別の場所にも複製を置いておくと安心です。
