台所の隅や玄関の靴箱の横に、赤い消火器が置いてある家は多いでしょう。でも、いざというときに「どこにあったか」「どう使うのか」「まだ使えるのか」をすぐに答えられる人は少ないものです。消火器は、火事の最初の数分にだけ意味がある道具です。その数分で迷わないために、知っておきたいことをまとめます。
今回はアッシュくんが、電気と防災設備にくわしいのりめぇる先生に、消火器の置き場所と使い方を教わります。
結論から言うと、消火器は「火が出やすい場所のすぐそば」ではなく「火が出やすい場所から少し離れた、逃げ道の途中」に置くのが正解です。台所で火が出たとき、コンロの横に置いた消火器には近づけません。使い方は、安全ピンを抜く、ホースを火に向ける、レバーを握る、の3動作で、火の根元を手前から掃くように狙います。家庭用の消火器には使用期限があり、多くは製造から数年で、本体に書かれた期限を過ぎたものは中身が出ない、または容器が傷んで危険なことがあるため、期限内に交換して古いものは決められた方法で処分します。
消火器はどこに置くのがよいのか
のりめぇる先生、消火器って火を消すものだから、コンロのすぐ横に置くのがいいんだよね?
それがいちばん多い間違いなんだ。コンロから火が上がったとき、コンロの横には熱くて近づけない。消火器が火の向こう側にあったら、取りに行けない。だから置くのは、火が出やすい場所から少し離れて、しかも逃げる方向にある場所だ。台所なら、台所の出入口の近く。火を背にして逃げる途中で手に取れる位置が理想だ。
もうひとつ大事なのは、家族全員が場所を知っていること。奥にしまい込んだ消火器は、ないのと同じだ。目に付く場所に、物を積まずに置く。倒れないように立てて、直射日光や湿気を避ける。屋外の物置は温度差と湿気で容器が傷みやすいから避けた方がいい。
2階建てなら、各階に一本ずつが望ましい。火事の初期にいちばん大事なのは時間で、階段を下りて取りに行く時間が命取りになることがある。
火の向こう側にあったら取れない。当たり前なのに、考えたことなかった。逃げ道の途中に置くんだね。
消火器の種類と向いている火
消火器は中身によって、消せる火の種類と使い勝手が変わります。家庭で選ぶときに知っておきたい代表的な種類を整理します。
| 種類 | 中身 | 得意な火 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 粉末(ABC) | 細かい粉 | 紙や木、油、電気機器のいずれにも対応 | いちばん普及している。放射時間が短く、粉が広がって視界が悪くなる |
| 強化液 | 薬剤を溶かした液 | 紙や木、油に対応。天ぷら油火災に強い | 放射時間が長め。液なので冷やす力があり、燃え直しを防ぎやすい |
| 住宅用消火器 | 粉末または強化液 | 家庭で起きやすい火 | 小型で軽く、女性や高齢者でも扱いやすい。詰め替えはできず、期限が来たら本体ごと交換 |
| エアゾール式簡易消火具 | スプレー缶 | ごく小さな火 | 消火器ではなく補助の道具。本体の消火器と併用する |
消火器の表面には、対応する火の種類が絵で示されています。「普通火災」は紙や木や布、「油火災」は天ぷら油やガソリン、「電気火災」はコンセントや電気機器の火です。家庭では3つすべてに対応した粉末か、台所で使うなら天ぷら油に強い強化液が選ばれることが多いです。
アッシュくんメモ:消火器なら何でも同じだと思ってたけど、粉と液で得意な火が違うんだね。台所は天ぷら油が心配だから、強化液も候補なのか。
使い方は3動作
使ったことがないから、本番でちゃんと使えるか不安だな。
動作は3つだけだ。まず、上部の安全ピンを抜く。次に、ホースを外して火に向ける。最後に、レバーを強く握る。この順番を「ピン、ホース、レバー」と覚えておけばいい。
狙うのは炎の上ではなく、燃えている物の根元だ。手前から奥へ、ほうきで掃くように左右に振る。粉末は放射時間が十数秒と短いから、火に近づいてから握る。ただし近づきすぎると熱いので、数歩離れた距離から始めて、消えてきたら近づく。屋外なら風上に立つ。
そして、いちばん大事なのは「消火器で消せるのは火が小さいうち」ということだ。目安は、炎が自分の背より低く、天井に届いていないうち。天井に燃え移ったら、消火器では無理だ。消火をあきらめて逃げて、119番に通報する。消火器は「消す道具」であると同時に「逃げるための時間を稼ぐ道具」でもあるんだ。
自治体の防災訓練や消防署の体験会では、水の入った訓練用の消火器で実際に握ることができます。一度でも触っておくと、本番での迷いがまったく違います。火事を知らせる設備については自動火災報知設備の基礎入門と住宅用火災警報器はなぜ10年で交換?で解説しています。
期限と点検と処分
消火器は置いておくだけでは役に立ちません。中身が出るかどうかは、期限と状態で決まります。
- 使用期限を確認する:本体のラベルに製造年と使用期限が書かれています。住宅用は詰め替えができないため、期限が来たら本体ごと交換します
- 圧力計を見る:圧力計が付いている型は、針が緑の範囲にあるかを確かめます。範囲を外れていたら使えません
- 容器の状態を見る:さび、へこみ、変形、ホースのひび割れがあれば、期限内でも交換します。傷んだ容器は使用時に破裂する危険があります
- 年に一度は手に取る:置き場所に物が積まれていないか、家族が場所を知っているかを確かめる機会にもなります
古い消火器は、ふつうのごみとして出すことはできません。中身が圧力で入っているためです。処分はメーカーが共同で運営している回収の制度を使うか、消火器を扱う販売店や工事店に引き取りを依頼します。新しい消火器を買うときに古いものを引き取ってもらうのが、いちばん手間がかかりません。
建物での設置の決まり
お店やビルには消火器が必ずあるよね。あれは決まりで置いてあるの?
そうだ。消防法で、建物の用途と広さに応じて消火器の設置が義務になっている。お店、事務所、工場、集合住宅などは、それぞれの決まりに沿って、どこからでも一定の距離の中に消火器がある配置にする。設計のときは、平面図に消火器の位置を書き込み、消防署に届け出て確認を受ける。
置き場所には目印の標識を付け、通路のじゃまにならず、誰でも取れる高さに置く。そして定期的な点検が義務で、資格を持った人が点検して、結果を消防署に報告する。一戸建ての住宅には消火器の設置義務はないが、住宅用火災警報器の設置は義務になっている。だから家庭の消火器は、義務ではなく自分と家族を守るための備えとして置くものだ。
設備設計の立場から言うと、消火器は火を消す設備の中でいちばん小さく、いちばん身近なものだ。大きな建物にはスプリンクラーや消火栓があるが、それでも消火器は必ず置く。最初の一手として、これに勝る道具はないからね。
建物の中で火と煙の広がりを止める考え方は防火区画の基礎入門で、逃げ道を示す設備は誘導灯と非常用照明の基礎入門で解説しています。
まとめ:逃げ道の途中に置き、3動作で根元を狙う
- 置き場所は火が出やすい場所のそばではなく、少し離れた逃げ道の途中。各階に一本、家族全員が場所を知っている状態にする
- 粉末はどの火にも対応、強化液は天ぷら油に強く冷やす力がある。住宅用は小型で扱いやすく、期限が来たら本体ごと交換
- 使い方はピン、ホース、レバーの3動作。炎ではなく燃えている物の根元を、手前から掃くように狙う
- 消せるのは炎が天井に届く前まで。無理と思ったら逃げて119番
- 期限、圧力計、容器の傷みを年に一度確認。古い消火器はごみに出さず回収制度か販売店へ
- 店舗やビルは消防法で設置と点検が義務。一戸建ての消火器は義務ではなく備え
おさらいクイズ
のりめぇる先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
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台所の消火器を置く場所として正しいのは?
- コンロのすぐ横
- コンロから少し離れた、台所の出入口の近く
- 屋外の物置の中
正解は2番。火の向こう側にあると取りに行けません。火を背にして逃げる途中で手に取れる位置に置きます。屋外の物置は温度差と湿気で容器が傷みやすいため避けます。
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消火器を使うとき、狙う場所は?
- 炎のいちばん上
- 天井
- 燃えている物の根元を手前から掃くように
正解は3番。炎の上に向けても消えません。燃えている物そのものの根元に薬剤をかけ、手前から奥へ左右に振ります。
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消火器で消せる火の目安は?
- 炎が自分の背より低く、天井に届いていないうち
- 部屋全体が燃えていても消せる
- 煙が出ているだけなら消火器は要らない
正解は1番。天井に燃え移ったら消火器では無理です。消火をあきらめて逃げ、119番に通報します。消火器は逃げる時間を稼ぐ道具でもあります。
よくある質問
一戸建ての家に消火器は必ず置かないといけませんか?
一戸建ての住宅には消火器の設置義務はありません。義務があるのは住宅用火災警報器です。ただし、火事の初期に自分で消せる道具は消火器しかないため、台所のある階を中心に備えておくことをおすすめします。
家庭用と業務用の消火器は何が違いますか?
住宅用消火器は家庭で起きやすい火を想定した小型で軽いもので、詰め替えができず期限が来たら本体ごと交換します。業務用は消防法の基準に合わせた能力を持ち、店舗やビルの設置義務を満たすためのものです。家庭で業務用を置いても問題はありませんが、重くて扱いにくいことがあります。
消火器を一度使ったら、残りはまた使えますか?
使えないと考えてください。一度レバーを握ると、中の圧力が抜けて残りの薬剤が出なくなることが多いためです。少しでも使った消火器は、新しいものに交換します。
天ぷら油の火に水をかけてはいけないのはなぜですか?
高温の油に水が触れると一瞬で水蒸気になって激しくはねとび、燃えている油をまき散らして火を広げるためです。天ぷら油の火は、消火器を使うか、火を止めてふたをして空気を断つのが基本です。ぬれたタオルをかぶせる方法もありますが、油が飛ぶ危険があるため慎重に行ってください。
消火器の点検は誰がするのですか?
店舗やビルなど設置義務のある建物では、消防設備士や消防設備点検資格者といった資格を持つ人が定期的に点検し、結果を消防署に報告します。家庭の消火器には点検の義務はないため、自分で期限と圧力計と容器の状態を年に一度確かめてください。
