壁や天井の中に隠れている断熱材。完成した家では見えなくなりますが、冬の暖かさと夏の涼しさを左右する主役です。そして種類によって性格がはっきり違います。
今回はアッシュくんが、建物の設計にくわしいさと吉先生に、断熱材の種類と選び方を教わります。実は断熱材が熱を止めるしくみは、意外なほど単純です。
断熱材の主役は「動かない空気」
さと吉先生、断熱材って何でできてるの? 熱を止める特別な素材なのかな。
特別な素材が熱を止めているというより、材料が抱え込んだ空気が働いているんだ。動かない空気は、とても熱を伝えにくい。
だから断熱材の作り方は2通りある。ひとつは細い繊維を綿のように絡ませて、繊維と繊維の間に空気を抱え込む方法。もうひとつは、材料の中に細かい気泡をびっしり作って、その中に空気やガスを閉じ込める方法。
前者が繊維系、後者が発泡プラスチック系と呼ばれる系統だね。どちらも狙いは同じで、動かない空気の層を厚く作ること。セーターが暖かいのも、羽毛布団がふんわり暖かいのも、まったく同じ原理だよ。
逆に言えば、空気が動いてしまうと断熱の力は落ちる。だから断熱材はすき間なく入れる必要があるし、押しつぶして薄くしてもいけないんだ。
空気が主役なんだ! セーターと同じって聞くと、急に身近に感じるね。
窓のガラスの間に空気の層を挟む複層ガラスも、まったく同じ発想で作られています。しくみはペアガラスと二重窓の違いで解説しています。
2つの系統の性格の違い
| 繊維系 | 発泡プラスチック系 | |
|---|---|---|
| 作り方 | 細い繊維の間に空気を抱える | 細かい気泡に空気やガスを閉じ込める |
| 代表例 | グラスウール、ロックウール、セルロースファイバー | ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、フェノールフォーム |
| 形 | 綿状・板状。すき間に押し込みやすい | 主に板状。現場で吹き付けるものもある |
| 湿気 | 水分を含むと性能が落ちやすい | 水を吸いにくい種類が多い |
| 燃えにくさ | 無機の繊維は燃えにくい | 種類によるが、可燃性のものは対策が必要 |
| 使われる場所 | 壁の中、天井裏、屋根裏 | 基礎、床下、外壁の外側、屋上 |
どちらが優れているという話ではなく、使う場所の条件で選び分けます。地面や水に近い場所では湿気に強い発泡プラスチック系が向き、壁の中にすき間なく充填したい場合は繊維系が扱いやすい、という具合です。
アッシュくんメモ:断熱材は「材料の勝ち負け」じゃなくて「場所との相性」で選ぶんだね。水に近いところは水に強いものを、って考えれば分かりやすい!
厚さと隙間、どちらも大事
断熱材は分厚く入れれば入れるほど暖かいってこと?
厚さは効くよ。でも同じくらい大事なのが、すき間を作らないことなんだ。
想像してみてほしい。分厚いダウンジャケットを着ていても、ファスナーが開いていたら寒いよね。断熱もそれと同じで、一部にすき間があると、そこが熱の抜け道になる。壁の中で断熱材が落ちてしまっている、配管の周りだけ入っていない、コンセントの箱の裏がすいている。こういう小さな欠落が、家全体の性能を下げてしまう。
だから断熱の性能は、材料の種類や厚さだけでなく、施工の丁寧さで決まる部分が大きい。図面に厚さが書いてあっても、現場でその通りに隙間なく入っていなければ、狙った性能は出ないんだ。目に見えなくなる部分だからこそ、確認が大切なんだよ。
壁の中で熱が逃げる経路には、断熱材以外の要因もあります。柱や梁など、断熱材より熱を通しやすい部材が壁を貫いている部分では、そこから熱が伝わります。設計ではこうした経路も含めて建物全体の性能を計算します。
湿気との付き合い方
断熱を考えるときに切り離せないのが湿気の問題です。
- 壁の中で結露しうる:室内の暖かく湿った空気が壁の中へ入り込み、冷えた部分で結露することがあります。これを壁内結露といいます
- 断熱材が濡れると性能が落ちる:とくに繊維系は、水分を含むと空気の層が失われて断熱の力が下がります
- だから防湿と通気を組み合わせる:室内側に湿気を通しにくい層を設け、外壁側には湿気を外へ抜く通気の道を作る。この組み合わせで壁の中を乾いた状態に保ちます
- 換気も欠かせない:室内の湿気そのものを減らすことが、壁を守ることにもつながります
結露が起きるしくみは結露のしくみと対策の基礎入門、室内の湿度を管理する考え方は換気設備と24時間換気の基礎入門で解説しています。断熱を強くするほど、湿気の設計が重要になるという関係にあります。
断熱は「我慢しない省エネ」
断熱の効果は、電気代の話にとどまりません。
- 部屋ごとの温度差が小さくなる:廊下や脱衣所の寒さが和らぎます。考え方は脱衣所や廊下が寒いのはなぜをどうぞ
- 暖房や冷房の効きが早くなる:逃げる熱が減るため、同じ機器でも室温が安定します
- 設備を小さくできる:熱の出入りが少なければ、必要な冷暖房の能力も小さくなります。機器の費用や運転費に跳ね返ります
- 結露とカビのリスクが下がる:冷たい面が減ることで、結露そのものが起きにくくなります
設備でがんばって熱を作る前に、まず逃げ道をふさぐ。この順番が省エネの基本です。だから断熱は、快適さを我慢せずに消費を減らせる手段として「我慢しない省エネ」と呼ばれることがあります。建物そのもので快適さを作る考え方はパッシブデザインの基礎入門で解説しています。
完成したら見えなくなる部分なのに、住み心地をいちばん左右してるんだね。家って、隠れてる場所ほど大事なのかも。
いい気づきだね。壁紙や床材は住んでから替えられるけれど、壁の中の断熱材は簡単には替えられない。だから建てるときにどこへ手をかけるかという判断が、その家の何十年を決めてしまう。見えるところにお金をかけたい気持ちは自然だけれど、見えないところを整えた家のほうが、暮らしてみると気持ちがいい。設計者が断熱の話を熱心にするのは、そういう経験の積み重ねからなんだよ。
まとめ:空気を抱え、すき間を作らない
- 断熱材が熱を止めるのは、材料が抱え込んだ動かない空気の働きによる
- 繊維の間に空気を抱える繊維系と、気泡に閉じ込める発泡プラスチック系に大別される
- 湿気に強い発泡系は基礎や床下、充填しやすい繊維系は壁の中や天井裏に向く
- 厚さと同じくらい、すき間を作らない施工が性能を決める
- 断熱を強くするほど、壁内結露を防ぐ防湿と通気の設計が重要になる
- 断熱は温度差の縮小、設備の小型化、結露の抑制にもつながる「我慢しない省エネ」
おさらいクイズ
さと吉先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
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断熱材が熱を止めるしくみの主役は?
- 金属の反射
- 材料が抱え込んだ動かない空気
- 材料の重さ
正解は動かない空気。繊維の間に抱えるか、気泡に閉じ込めるかの違いはあっても、狙いは空気の層を作ることです。
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基礎や床下など水に近い場所に向くのは?
- 水を吸いにくい発泡プラスチック系
- 水分を含みやすい繊維系
- どちらも同じ
正解は発泡プラスチック系。繊維系は水分を含むと空気の層が失われ、断熱の力が落ちてしまいます。
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断熱材を分厚く入れても性能が出ない原因は?
- 材料の色が悪いから
- 厚すぎるから
- すき間があり、そこが熱の抜け道になっているから
正解はすき間。ファスナーの開いたダウンジャケットと同じで、一部の欠落が全体の性能を下げます。施工の丁寧さが決め手です。
よくある質問
断熱材はリフォームで追加できますか?
できる場合があります。天井裏や床下は比較的手を入れやすく、後から断熱材を足す工事が行われます。壁は仕上げをはがす必要があるため大がかりになりますが、内側から施工する方法もあります。優先順位としては、まず窓、次に天井や床から検討するのが効果を実感しやすい順です。
断熱材はどのくらいの厚さが必要ですか?
地域の気候と、目指す性能によって変わります。国が定める省エネの基準では地域ごとに区分が設けられており、同じ厚さでも寒い地域では不足になります。具体的な仕様は設計者が計算して決めるため、「わが家の地域ではどの水準を目指すか」を相談の出発点にしてください。
古い家に断熱材が入っていないことはありますか?
あります。建てられた年代によっては、断熱材がほとんど入っていない住宅も珍しくありません。冬に壁や床が明らかに冷たい、暖房が効きにくいといった感覚は、その可能性を示すサインです。改修を検討する際は、現況の調査から始めることになります。
断熱材にネズミや虫が入ることはありますか?
建物への侵入経路がある場合、断熱材が巣の場所になることがあります。巣ができると断熱材がつぶれて性能が落ちるうえ、衛生上の問題も生じます。配管の貫通部などのすき間をふさぐことが、断熱と防虫の両方で有効です。
断熱を強くすると夏も涼しくなりますか?
涼しくなります。断熱は熱の出入りを抑えるものなので、冬は熱を逃がさず、夏は外の熱を入れにくくします。ただし夏は窓から入る日射の影響が大きいため、断熱と合わせて日射を遮る工夫が必要です。庇やすだれ、遮熱のガラスが効きます。
