ビルやマンションの管理をしていると、ある日「定期報告の時期です」という通知が届きます。何を、誰に頼んで、どこへ出せばよいのか。初めて担当になった人にとっては、言葉から分かりにくい制度です。一方で、この報告を怠った建物で事故が起きた例は少なくありません。

今回はアッシュくんが、意匠設計にくわしいさと吉先生に、建物の定期報告とは何か、誰が何をいつ点検するのかを教わります。

結論から言うと、定期報告とは、多くの人が使う建物の所有者や管理者が、資格を持った専門家に建物と設備を定期的に調べてもらい、その結果を特定行政庁と呼ばれる役所へ報告する、建築基準法で定められた制度です。報告には、建物本体を見る特定建築物の調査、換気や排煙などを見る建築設備の検査、防火戸などを見る防火設備の検査、エレベーターなどを見る昇降機の検査の4つがあります。対象になる建物と報告の周期は、建物の用途と規模、そして所在地の役所の定めによって決まります。所有者がやるべきことは、自分の建物が対象かを確認し、資格者に依頼し、指摘された不具合を直し、報告書を保管することの4つです。

なぜ定期報告という制度があるのか

アッシュくん

さと吉先生、建物って建てるときに役所の検査を受けるんだよね。それなのに、建てたあとも報告しないといけないの?

さと吉先生

そうなんだ。建てるときの検査は「完成した時点で決まりに合っているか」を見る。でも建物は、使っているうちに変わっていく。外壁のタイルが浮いて落ちそうになる、防火戸の前に荷物が積まれて閉まらなくなる、非常階段の扉に鍵がかけられる、換気の機械が止まったまま放置される。完成のときに合格していても、何年か経てば危険な状態になっていることがある。

それを放置した建物で、火事のときに逃げられなかった、外壁が落ちて通行人がけがをした、という事故が実際に起きてきた。そこで、多くの人が使う建物については、所有者の責任で定期的に専門家に調べさせ、役所に報告する仕組みが作られた。それが建築基準法の定期報告制度だ。

ポイントは「所有者や管理者の義務」だということ。役所が見に来るのではなく、建物を持っている側が自分で調べさせて報告する。だから、通知が来なくても、自分の建物が対象かどうかを知っておく必要があるんだよ。

アッシュくん

建てたときは大丈夫でも、使ってるうちに危なくなることがあるのか。役所が来るんじゃなくて、持ち主が調べて報告するんだね。

4つの報告の種類

定期報告は、何を調べるかによって4つに分かれています。それぞれ、調べる人の資格も、報告の周期の考え方も異なります。

報告の種類調べる対象主な確認内容周期の目安
特定建築物の定期調査建物本体敷地、構造、外壁の落下の危険、屋上、避難経路、防火区画の状態役所の定めにより、おおむね数年に一度
建築設備の定期検査換気、排煙、非常用照明、給排水換気設備の風量、排煙設備の作動、非常用照明の点灯、給排水の配管の状態役所の定めにより、おおむね年に一度
防火設備の定期検査防火戸、防火シャッターなど煙や熱を感知したときに正しく閉まるか、閉まる範囲に物がないか役所の定めにより、おおむね年に一度
昇降機等の定期検査エレベーター、エスカレーターなど安全装置の作動、ワイヤーの状態、扉の動き役所の定めにより、おおむね年に一度

防火設備の検査は、2016年から独立した項目になりました。それ以前は建物本体の調査の一部でしたが、防火戸が閉まらないことが原因で被害が広がった火災を受けて、専門の資格者が毎年見る仕組みに変わっています。

アッシュくんメモ:建物本体、設備、防火戸、エレベーターの4つに分かれてるんだね。それぞれ調べる人の資格が違って、周期も違う。全部まとめて一回で済むわけじゃないんだ。

対象になる建物はどう決まるのか

アッシュくん

うちみたいな一戸建ても報告しないといけないの?

さと吉先生

一戸建ての住宅は対象外だ。対象になるのは、不特定多数の人が使う建物、または逃げるのに助けが要る人が使う建物。劇場や映画館、百貨店や店舗、ホテルや旅館、病院や高齢者の施設、学校、共同住宅、事務所などが候補になる。ただし、これらの用途なら全部というわけではなく、階数や床面積が一定以上のものが対象になる。

ここで大事なのは、対象の線引きを最終的に決めるのは、国ではなく建物の所在地の特定行政庁だということ。国が「この用途でこの規模以上は必ず対象」という最低限を定め、そのうえで各地の役所が地域の事情に合わせて対象を広げたり、周期を決めたりしている。だから、同じ用途と規模の建物でも、東京と別の県では扱いが違うことがある。

自分の建物が対象かどうかは、所在地の役所の建築指導の窓口か、その役所の案内のページで確かめるのが確実だ。新築のときに設計者から引き継ぎを受けていれば、その資料にも書いてある。

建物の完成時に引き渡される図面と書類の役割は竣工図とはで解説しています。定期報告の調査でも、竣工図があると防火区画や設備の位置を確認する作業がずっと楽になります。

具体的に何を見るのか

調査や検査の当日、資格者は建物を回って、目で見る、動かす、測る、という作業を行います。代表的な確認項目を挙げます。

  • 外壁:タイルやモルタルの浮きや割れ。落下すれば通行人に当たるため、竣工や改修から一定の年数を過ぎると打診による全面の調査が求められることがあります
  • 避難経路:廊下や階段に物が置かれていないか、非常口の扉が開くか、屋外階段がさびて危険でないか
  • 防火区画と防火戸:防火戸が感知器と連動して閉まるか、閉まる範囲に荷物がないか、区画の壁に穴が開けられていないか
  • 換気設備:機械換気の風量が足りているか、給気口や排気口がふさがれていないか
  • 排煙設備:排煙口が開くか、排煙機が動くか、操作の装置が使える状態か
  • 非常用照明:停電時に点灯するか、電池が劣化していないか
  • エレベーター:扉の安全装置、地震時の管制運転、非常時の連絡装置

火と煙の広がりを止める防火区画の考え方は防火区画の基礎入門で、煙を外に出す設備は排煙設備の基礎入門で、停電時の明かりは誘導灯と非常用照明の基礎入門で解説しています。エレベーターの安全装置はエレベーター設備の基礎入門をご覧ください。

所有者と管理者がやるべきこと

アッシュくん

建物を持ってる人は、具体的に何をすればいいの? 自分で調べるわけじゃないんでしょ?

さと吉先生

やることは4つだ。ひとつめ、自分の建物がどの報告の対象で、いつまでに出すかを把握する。ふたつめ、資格を持った人に依頼する。建物本体の調査は一級建築士や二級建築士、または特定建築物調査員。設備や防火設備、昇降機はそれぞれの検査員の資格がある。設計事務所や設備の保守会社、検査を専門にする会社が窓口になることが多い。

みっつめが、いちばん大事だ。調査で見つかった不具合を直すこと。報告書には「要是正」といった形で指摘が書かれる。報告を出しただけで安心して、指摘を放置している建物は少なくない。指摘の内容には、防火戸の前の荷物のように今日直せるものもあれば、外壁の改修のように計画が要るものもある。緊急度を見て、順に直していく。

よっつめ、報告書と指摘の記録を保管して、次の報告のときに引き継ぐ。前回の指摘が直っているかどうかは、次の調査で必ず見られる。建物を売るときや管理会社を替えるときにも、この記録が建物の信頼につながる。設計事務所の立場では、設計監理で関わった建物の定期報告を続けて受けることも多く、建物を長く見守る仕事の一部になっているんだ。

設計者が工事中に確認する役割は設計監理とはで、設備の更新を計画的に考える方法は設備の更新はいつで解説しています。定期報告の指摘は、更新計画を立てるための貴重な情報源にもなります。

まとめ:所有者の義務として、調べ、直し、記録する

  • 定期報告は、多くの人が使う建物の所有者や管理者が、資格者に調べさせて役所へ報告する建築基準法の制度
  • 建てたときの検査に合格しても、使ううちに危険な状態になることがあるため、定期的に確認する
  • 報告は特定建築物、建築設備、防火設備、昇降機の4種類。調べる人の資格と周期がそれぞれ異なる
  • 対象と周期は国の最低限の基準の上に、所在地の特定行政庁が定める。一戸建て住宅は対象外
  • 所有者がやることは、対象と期限の把握、資格者への依頼、指摘の是正、記録の保管の4つ
  • 報告を出すことより、指摘を直すことが本来の目的

おさらいクイズ

さと吉先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。

  1. 定期報告は誰の義務?

    • 役所が建物を見に来る義務
    • 建物の所有者や管理者が、資格者に調べさせて報告する義務
    • 建物を建てた工事会社の義務

    正解は2番。役所が見に来るのではなく、建物を持っている側が自分の責任で調べさせ、報告します。通知が来なくても対象かどうかを知っておく必要があります。

  2. 定期報告の4つの種類に含まれないものは?

    • 建築設備の定期検査
    • 防火設備の定期検査
    • 家具の配置の検査

    正解は3番。4種類は特定建築物の調査、建築設備の検査、防火設備の検査、昇降機等の検査です。ただし避難経路に物が置かれていないかは調査の対象になります。

  3. 報告書に「要是正」の指摘があった。所有者がすべきことは?

    • 緊急度を見て順に直し、記録を残して次の報告に引き継ぐ
    • 報告書を出したので何もしなくてよい
    • 次の報告まで待ってから考える

    正解は1番。報告を出すことが目的ではなく、指摘を直すことが本来の目的です。前回の指摘が直っているかは次の調査で必ず確認されます。

よくある質問

定期報告を出さないとどうなりますか?

建築基準法に基づく義務なので、報告しない、または虚偽の報告をした場合には罰則の定めがあります。それ以上に、事故が起きたときに所有者や管理者の責任が問われる根拠になります。対象の建物であれば、期限内に報告することが所有者を守ることにもなります。

消防の点検とは違うのですか?

違います。消防法に基づく消防用設備の点検は、消火器やスプリンクラー、火災報知設備などを消防設備士などが点検し、消防署に報告するものです。建築基準法の定期報告は、建物本体や換気、排煙、防火戸、エレベーターを対象に、特定行政庁へ報告します。同じ建物で両方が必要になることが多く、依頼先も報告先も別です。

分譲マンションでは誰が報告するのですか?

共用部分の所有者である管理組合が報告の主体になります。実務は管理会社が窓口となって資格者に依頼し、管理組合の名前で報告することが一般的です。指摘の是正には修繕積立金からの支出や総会の決議が必要になることがあるため、報告書の内容を理事会で共有しておくことが大切です。

調査の当日は何を用意すればよいですか?

竣工図や前回の報告書、鍵の手配、機械室や屋上、電気室への立ち入りの段取りを用意しておくと調査が円滑に進みます。防火戸の作動の確認や排煙口の開放など、建物を使っている人に影響する作業があるため、テナントや住民への事前の周知も必要です。

報告の周期は建物ごとに違うのですか?

違います。国が定めた最低限の枠の中で、所在地の特定行政庁が用途と規模ごとに周期と報告の時期を定めています。同じ用途でも地域によって扱いが異なることがあるため、所在地の役所の建築指導の窓口か案内のページで確認してください。