「この幹線、何sqにすればいい?」。電気設備設計を始めたばかりの人が最初にぶつかる実務の壁が、幹線サイズの選定です。カタログの許容電流表だけ見て決めてしまい、あとから電圧降下で引っかかる。そんな手戻りを防ぐには、チェックの順番を体で覚えるのがいちばんです。
この記事では、幹線ケーブルのサイズを決める実務の手順を、4つのステップに分けて解説します。幹線と分岐回路の基礎を読んでいれば、より理解が深まります。
大前提:電線サイズは3つの条件をすべて満たす
電線・ケーブルのサイズは、次の3つの条件をすべてクリアして初めて決定です。
| チェック | 内容 | 見落とすと |
|---|---|---|
| 許容電流 | 流れる電流をケーブルが安全に流せるか | 過熱・火災の危険 |
| 電圧降下 | 末端で必要な電圧を保てるか | 機器の動作不良 |
| 機械的強度 | 施工・使用に耐える太さか | 断線・損傷 |
順番も大切です。まず許容電流で候補を絞り、次に電圧降下で検証し、最後に機械的強度を確認する。この流れなら手戻りが最小になります。逆の順番で進めると、最後の検証で振り出しに戻ることになりがちです。
手順1:設計電流を求める
最初にやるのは、幹線に「実際にどれだけの電流が流れるか」の見積りです。つないだ機器の定格をすべて合計すると、現実より大きすぎる数字になります。全部の機器が同時にフル稼働することは、まずないからです。
そこで、負荷の合計容量に需要率を掛けて、現実的な最大需要電力を求めます。たとえば負荷合計50kVAで需要率60%なら、見込むべきは30kVA。これを電圧から電流に換算したものが設計電流です。需要率の考え方と計算例は需要率・負荷率・不等率の基礎入門で詳しく解説しています。
このとき、将来の負荷増設の見込みがあるなら、この段階で上乗せしておきます。幹線はあとから太くするのが大変な場所だからです。
手順2:許容電流でケーブルの候補を絞る
設計電流が決まったら、それを安全に流せるケーブルを許容電流表から選びます。ここで注意したいのは、カタログの許容電流がそのまま使えるとは限らないことです。許容電流は、次の条件で目減りします。
- 布設方法:電線管やラックに複数条まとめて布設すると、熱がこもって許容電流は下がります(低減率を掛ける)
- 周囲温度:基準温度より暑い場所(機械室・屋外など)では、さらに補正が必要です
「設計電流 ≦ 補正後の許容電流」となる最小サイズが第一候補です。許容電流の値は、内線規程やメーカーの技術資料の表で必ず確認してください。ケーブルの種類ごとの特徴は電線とケーブルの基礎入門にまとめています。
手順3:電圧降下で検証する
候補が決まったら、電圧降下の簡易式で検証します。例題でやってみましょう。
例題:三相3線式200Vの幹線。設計電流60A、こう長40m、候補は14sq。
e = 30.8 × 40 × 60 ÷(1000 × 14)= 73,920 ÷ 14,000 = 約5.28V
率にすると 5.28 ÷ 200 = 約2.6%。低圧幹線の目安2%を超えました。そこで22sqに上げて再計算します。
e = 30.8 × 40 × 60 ÷(1000 × 22)= 73,920 ÷ 22,000 = 約3.36V。率は約1.7%でクリアです。
このように、許容電流では通っても電圧降下で1〜2サイズ上がることは珍しくありません。とくにこう長が30mを超えるあたりから、電圧降下が支配的になってきます。計算のくわしい練習は電圧降下の計算例集をどうぞ。
アッシュくんメモ:ベテランは「長い幹線はまず電圧降下から計算する」ことも多いんだ。どうせそっちで決まるなら、先に計算したほうが早いからね!
手順4:遮断器との協調を確認する
最後に、幹線を保護する配線用遮断器との関係を確認します。原則はシンプルで、ケーブルの許容電流が、遮断器の定格電流以上になっていることです。この関係が逆転していると、ケーブルが過熱しても遮断器が落ちない、という危険な状態になります。
また、幹線の途中で分岐する場合の分岐点からの距離と保護の関係、上位・下位の遮断器の動作協調(保護協調)もあわせて確認します。過電流と保護の考え方は短絡・地絡・過負荷の違い入門で整理しています。
実務でよくある失敗と防ぎ方
- カタログの許容電流を素の値のまま使う:ラックに多条布設された現場の幹線は、想定より熱がこもります。低減率を掛け忘れると、机上ではOKでも現場では危険側の設計になります
- 電圧降下の検証を後回しにして手戻りする:機器表も盤図も仕上げたあとに幹線サイズが変わると、修正範囲が一気に広がります。サイズ決定は系統図の段階で終わらせましょう
- 将来増設の余地を残さない:テナントビルや工場では、入居者や生産設備の変化で負荷が増えるのが常です。幹線と電線管に余裕がないと、増設のたびに大工事になります
- 根拠を残さない:需要率や低減率の設定根拠を図書に書いておかないと、あとで見直す人(未来の自分を含む)が検証できません。計算書はセットで残すのが鉄則です
どれも「知っていれば防げる」失敗ばかりです。チェックリストを手元に置いて、ひとつずつ潰しながら進めてください。
選定チェックリスト
- 負荷合計と需要率から設計電流を出したか(将来増設の余裕を見たか)
- 布設条件・周囲温度の低減を掛けた許容電流で候補を選んだか
- 電圧降下を計算し、幹線2%(高圧受電は3%)の目安に収めたか
- ケーブル許容電流 ≧ 遮断器定格の関係になっているか
- 幹線サイズ・遮断器・こう長を系統図や幹線表に明記したか
まとめ:順番どおりに進めれば迷わない
- 電線サイズは許容電流・電圧降下・機械的強度の3条件をすべて満たす必要がある
- 手順は「設計電流 → 許容電流で絞る → 電圧降下で検証 → 遮断器と協調」の4ステップ
- 設計電流は負荷合計×需要率。将来増設もこの段階で見込む
- 許容電流は布設条件と周囲温度で目減りする。表の値を鵜呑みにしない
- こう長が長い幹線は、電圧降下でサイズが決まることが多い
- ケーブルの許容電流は遮断器の定格以上に。逆転は危険信号
おさらいクイズ
この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
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電線サイズ選定の3つのチェックに含まれないのはどれ?
- 許容電流
- ケーブルの色
- 電圧降下
正解はケーブルの色。チェックすべきは許容電流・電圧降下・機械的強度の3つです。
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設計電流を求めるとき、負荷の合計に掛けるのは?
- 需要率
- 力率だけ
- 安全率10倍
正解は需要率。全機器が同時にフル稼働することはないため、現実的な最大需要で見積もります。
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ケーブルの許容電流と遮断器の定格電流の正しい関係は?
- 遮断器のほうが大きい
- どちらでもよい
- ケーブルの許容電流が遮断器の定格以上
正解は3番目。逆だとケーブルが過熱しても遮断器が落ちず、火災の危険につながります。
よくある質問
許容電流の具体的な数値はどこで調べればよいですか?
内線規程の許容電流表と、ケーブルメーカーの技術資料が基本です。同じサイズでもケーブルの種類(VVF・CVなど)や布設条件で値が変わるため、設計条件に合った表を参照してください。当ブログでは種類ごとの特徴を電線とケーブルの基礎入門で紹介しています。
需要率はどうやって決めるのですか?
建物用途や負荷の種類ごとの実績値・経験値をもとに設定します。照明・コンセント・空調など負荷グループごとに変えるのが一般的です。迷う場合は安全側(大きめ)に設定し、根拠を設計図書に残しておくことが大切です。
幹線の途中でサイズを細くしてもよいですか?
分岐後の負荷に見合ったサイズに細くすること自体はあります。ただし細くした区間が適切に保護されるよう、分岐点からの距離や過電流保護の条件を満たす必要があります。内線規程の分岐回路・幹線の規定を確認しながら計画してください。
幹線が複数系統あるときは何から手をつけますか?
負荷の大きい系統、こう長の長い系統から先に計算するのがおすすめです。この2つは電線サイズが大きくなりやすく、電気シャフトや盤のスペース、コストへの影響も大きいためです。厳しい条件の幹線から決めていくと、全体の計画が早く安定します。
機械的強度のチェックとは具体的に何をしますか?
短すぎる・細すぎる電線は施工中の引っ張りや曲げで損傷しやすいため、用途ごとに最小太さの目安が定められています。一般的な幹線サイズなら自然に満たしていることが多いですが、細い制御用配線などでは意識して確認します。
