電柱の上や、ビルの片隅にある灰色の箱。その中でひそかに働いているのが変圧器(トランス)です。電気を安全に使うために欠かせない機器で、電気設備設計でも基本中の基本として登場します。名前は聞いたことがあっても、何をしているのかは意外と知られていません。

この記事では、電気設備の基礎として、変圧器のしくみをやさしく整理します。変圧器の役割、電磁誘導のしくみ、巻数比と電圧の関係、建物での使われ方、種類まで、初心者にも分かるように順番に解説します。

変圧器とは(電圧を変える機器)

変圧器とは、その名のとおり電圧を変える機器です。高い電圧を低くしたり、逆に低い電圧を高くしたりします。私たちが家庭で使う電気は100Vや200Vですが、電力会社から建物へ送られてくる電気は、もっと高い電圧です。この高い電圧を、使いやすく安全な電圧に変えているのが変圧器です。

なぜわざわざ高い電圧で送るのかというと、電気を遠くまで送るときは、電圧が高いほうが効率がよく、途中での損失が少ないためです。そこで、送るときは高い電圧、使うときは低い電圧、という具合に、場面に応じて電圧を切り替える必要があります。その切り替え役が変圧器なのです。発電所から家庭に届くまでの間にも、変電所などで何度も電圧が変えられており、その一つひとつに変圧器が使われています。私たちの暮らしは、無数の変圧器に支えられているといえます。

しくみは「電磁誘導」

変圧器の中身は、意外とシンプルです。共通の鉄心に、2つのコイル(電線をぐるぐる巻いたもの)を巻きつけた構造をしています。電気が入る側を一次側、出る側を二次側と呼びます。

動きの原理は、電磁誘導という現象です。一次側のコイルに交流の電気を流すと、鉄心の中に向きの変わる磁束(磁気の流れ)が生まれます。この磁束が二次側のコイルを通ると、電磁誘導によって二次側に電圧が生まれます。コイル同士は電線でつながっていないのに、磁束を仲立ちにして電気が伝わる、というのがポイントです。

変圧器のしくみ(電磁誘導)鉄心(磁束の通り道)一次側高圧 6600V二次側低圧 200V/100V磁束が鉄心をめぐる

ここで大切なのは、変圧器は交流でしか働かないという点です。磁束が変化することで電磁誘導が起こるため、向きが変わらない直流では、変圧器は電圧を変えられません。家庭やビルで交流が使われている理由の一つが、この変圧のしやすさにあります。

アッシュくんメモ:変圧器がうなるような音を出すことがあるよね。あれは、交流で向きが変わる磁束によって、鉄心がごくわずかに伸び縮みして振動するからなんだ。働いている証拠でもあるんだよ。

巻数比で電圧が決まる

では、電圧はどうやって決まるのでしょうか。答えは、一次側と二次側のコイルの巻数(巻いた回数)の比です。巻数の多い側が高い電圧、少ない側が低い電圧になります。

たとえば、一次側の巻数が二次側の33倍なら、電圧も約33分の1に下がります。6600Vを200V程度に落とすのは、こうした巻数の比で実現しています。そしてもう一つ大事なのが、電圧を下げると、その分だけ電流は増えるということです。変圧器は電力(電圧×電流)を増やす機械ではなく、電圧と電流の組み合わせを変える機械なので、入ってくる電力と出ていく電力は、ほぼ同じになります。

巻数の比で電圧が決まる巻数が多い側高い電圧電流は小さい巻数が少ない側低い電圧電流は大きい電圧を下げると電流は増える。電力(電圧×電流)はほぼ変わらない

アッシュくんメモ:変圧器は「電気を増やす魔法の箱」ではないんだ。電圧を下げれば電流が増える、いわばシーソーの関係。全体の電力(仕事量)は変わらない。ここを押さえると、電気の話がぐっと分かりやすくなるよ。

建物での変圧器の役割

ビルや工場など、電気をたくさん使う建物では、電力会社から6600Vという高い電圧(高圧)で電気を受け取ります。この高圧のままでは、照明やコンセントには使えません。そこで、建物の中の変圧器で、電灯用の100Vや、動力用の200Vなどに下げて、各所へ配ります。

この変圧器は、多くの場合キュービクルと呼ばれる金属の箱の中に、他の高圧機器とまとめて収められています。以前のキュービクルの記事で「高圧を低圧に変える」と触れましたが、その心臓部を担っているのが、この変圧器です。電灯用と動力用で別々の変圧器を設けることもあり、建物の使い方に合わせて容量や台数を計画します。なお、家庭やアパートなど電気の使用量が少ない建物では、建物内に変圧器を持たず、電柱の変圧器で下げられた100V/200Vを直接受け取ります。建物の規模によって、変圧器を持つかどうかが変わるわけです。

変圧器の種類と性能

変圧器には、目的や設置場所に合わせていくつかの種類があります。代表的な分け方を知っておくと、図面や現場での理解が早くなります。

分け方種類特徴
電圧の向き降圧/昇圧電圧を下げる/上げる。建物では主に降圧
相の数単相/三相電灯用は単相、動力用は三相が中心
冷やし方油入式/モールド式(乾式)油で冷やす/樹脂で固めて空気で冷やす

油入式は、絶縁油で冷やすタイプで、大容量に向きますが油の管理が必要です。モールド式は、コイルを樹脂で固めた乾式で、油を使わないため屋内やビルに置きやすいのが特長です。また、変圧器は動いているだけで少しずつ電気を消費します(損失)。その分だけ効率が下がるため、省エネの観点から、損失の小さい高効率の変圧器が選ばれるようになっています。容量はkVA(キロボルトアンペア)という単位で表します。

変圧器の選び方と保守

変圧器は、建物の電気を支える重要な機器なので、選び方と維持管理にもポイントがあります。設計や管理の面で押さえておきたい点を挙げます。

  • 容量に余裕を持たせる:小さすぎると容量不足で使えず、大きすぎると損失や費用が無駄になります。今の負荷に加え、将来の増設も見込んで容量(kVA)を選びます。
  • 高効率型を選ぶ:変圧器は建物が動いているあいだ、ほぼ常に通電しています。少しの効率差でも、長い年月では電気代に大きく効きます。トップランナー基準に対応した高効率型が主流です。
  • 設置場所と冷却:変圧器は熱を出すため、風通しや周囲の温度に配慮した設置が必要です。屋内では、油を使わないモールド式が選ばれやすくなります。
  • 定期点検:高圧の機器なので、法令に基づく点検が求められます。異音・異臭・温度上昇などの異常がないか、専門の資格者が定期的に確認します。

変圧器は、いったん設置すると何十年も使われることが多い機器です。だからこそ、選ぶときの容量や効率の判断が、その後の使い勝手と電気代を長く左右します。維持管理の記事で触れたように、点検と計画的な更新で、安全と性能を保ち続けることが大切です。

まとめ:変圧器の基礎を押さえる

  • 変圧器は電圧を変える機器。送るときは高圧、使うときは低圧に切り替える役割。
  • しくみは電磁誘導。鉄心と2つのコイルで、磁束を仲立ちに電気を伝える。交流専用。
  • 電圧は巻数比で決まる。電圧を下げると電流は増え、電力はほぼ変わらない。
  • 建物では6600Vを100V/200Vに降圧。多くはキュービクル内に収められる。
  • 降圧/昇圧・単相/三相・油入/モールドなどの種類がある。損失の小さい高効率型が主流に。
  • 容量に余裕を持たせ、高効率型を選び、定期点検で長く安全に使う。

おさらいクイズ

この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。

  1. 変圧器は電気を増やせる?

    • 自由に増やせる
    • 2倍にできる
    • 増やせない(電圧と電流の組合せを変えるだけ)

    正解は3番目。電圧を下げれば電流が増える関係で、全体の電力はほぼ一定です。

  2. 変圧器が直流では働かない理由は?

    • 電圧が低いから
    • 磁束が変化せず電磁誘導が起こらないから
    • 電流が大きすぎるから

    正解は2番目。変圧器は磁束の変化で電磁誘導を起こすため、交流でしか働きません。

  3. 電柱の上の変圧器が家庭用に下げる電圧はどれ?

    • 6600Vを100V/200Vに
    • 100Vを6600Vに
    • 200Vを400Vに

    正解は1番目。ビルでは建物内のキュービクルに変圧器が収められています。

よくある質問

変圧器は電気を増やせるのですか

いいえ。変圧器は電圧と電流の組み合わせを変えるだけで、電力そのものを増やすことはできません。電圧を下げれば電流が増え、上げれば電流が減る、というシーソーの関係で、全体の電力はほぼ一定です。

なぜ直流では変圧できないのですか

変圧器は、磁束が変化することで電磁誘導を起こして電圧を変えます。向きが一定の直流では磁束が変化しないため、電磁誘導が起こりません。だから変圧器は交流でしか働かないのです。

油入式とモールド式はどちらがよいのですか

用途によります。油入式は大容量に向き、屋外にも使われますが油の管理が要ります。モールド式は油を使わず、屋内やビルに置きやすいのが利点です。設置場所や容量、防災の条件で選びます。

家庭にも変圧器はあるのですか

家庭のすぐ近くにあります。電柱の上に載っている灰色の円筒などが変圧器で、6600Vを家庭用の100V/200Vに下げています。マンションやビルでは、建物内のキュービクルに変圧器が収められています。ふだん意識することは少ないですが、街のあちこちで静かに働いている、身近な電気設備です。