電気設備の話でときどき出てくる「力率(りきりつ)」という言葉。とくに工場やビルの電気を考えるとき、電気代にも関わる大切な指標です。名前は難しそうですが、「送った電気のうち、どれだけがちゃんと役に立っているか」という割合のことです。数字が高いほど、電気を無駄なく使えているということになります。

この記事では、電気設備の基礎として、力率と力率改善をやさしく整理します。3つの電力の関係、力率が下がる理由、改善の方法、電気料金とのつながりまで、これまでのV・A・Wや動力の記事の続きとして順番に解説します。

力率とは(役に立った電気の割合)

力率とは、電源から送り出した電気のうち、実際に仕事に使われた割合のことです。ここで、電気には3つの種類の「電力」があることを知っておく必要があります。ビールのジョッキにたとえると、とても分かりやすくなります。

  • 有効電力(W):実際に機器の仕事に使われる電力。ジョッキの「飲めるビール」です。
  • 無効電力(var):仕事には使われず、電源と機器の間を往復するだけの電力。ジョッキの「泡」です。
  • 皮相電力(VA):電源が送り出す全体の電力(見かけの電力)。ジョッキ「全体」です。
3つの電力(ビールの例え)ビール=無効電力(var)往復するだけで使えない=有効電力(W)実際に仕事に使われるジョッキ全体=皮相電力(VA)送り出す全体力率=ビール(有効)÷ジョッキ全体(皮相)。泡が少ないほど力率が良い

力率は、有効電力(飲めるビール)を皮相電力(ジョッキ全体)で割った値です。泡が少なく、ジョッキいっぱいにビールが入っているほど、力率は良い(100%に近い)状態です。逆に泡ばかりだと、たくさん注いだのに飲める量が少ない、つまり力率が悪い状態です。

3つの電力の関係と単位

3つの電力は、それぞれ単位が違います。以前のV・A・Wの記事でkVA(キロボルトアンペア)が出てきましたが、あれが皮相電力の単位です。整理すると次のようになります。

電力単位意味
有効電力W(ワット)実際に仕事に使われる電力
無効電力var(バール)往復するだけで仕事をしない電力
皮相電力VA(ボルトアンペア)電源が送り出す全体の電力

電気を送る電線や変圧器は、有効電力だけでなく、皮相電力(全体)の大きさに耐える必要があります。無効電力が大きい(力率が悪い)と、実際の仕事は少ないのに、送る側は大きな電気を扱わなければならず、無駄が生じます。だから力率は、電気を効率よく使えているかの目安になるのです。3つの電力は、直角三角形の関係(有効が底辺、無効が高さ、皮相が斜辺)で表され、力率はその角度の余弦(cosθ)として計算されます。ここでは「泡が少ないほど力率が良い」と、イメージで押さえておけば十分です。

なぜ力率が下がるのか

力率を下げる主な犯人は、モーターです。ポンプやファン、エアコンなど、モーターを使う機器(誘導性負荷)は、その性質上、磁界をつくるために無効電力を必要とします。この無効電力が、ジョッキの泡のように増え、力率を下げてしまうのです。

動力設備の記事で「モーターは力率が下がりがち」と触れましたが、その理由がこれです。モーターの多い工場などでは、何も対策しないと力率が悪くなり、電気を効率よく使えなくなります。だからこそ、力率を良くする工夫(力率改善)が必要になります。

アッシュくんメモ:無効電力は「まったくの無駄」かというと、そうでもないんだ。モーターが回るには、磁界をつくるための無効電力がどうしても必要。ゼロにはできないから、「増えすぎた分を打ち消して、ちょうどよくする」のが力率改善の考え方なんだよ。

力率改善のしくみとメリット

力率を良くするために使われるのが、進相コンデンサ(力率改善用コンデンサ)です。以前の動力の記事でも触れた機器です。

モーターが生む無効電力は「遅れ」の性質を持ちます。コンデンサは、逆に「進み」の無効電力を出す性質があります。この2つを組み合わせると、遅れと進みが打ち消し合い、全体の無効電力(泡)が小さくなります。すると、送り出す皮相電力(ジョッキ全体)も小さくてすみ、力率が良くなるのです。

力率改善(コンデンサで無効を減らす)改善前(力率が低い)有効無効(大)コンデンサ改善後(力率が良い)有効無効(小)皮相が小さくなり送る電気に余裕

力率を改善すると、いくつものメリットがあります。電線や変圧器を流れる余分な電流が減るため、配電のロス(発熱による無駄)が減り、省エネになります。機器にかかる余計な負担も減り、寿命の延長にもつながります。同じ変圧器や電線でも、力率が良くなれば、より多くの有効な電力を送れるようになる(設備の余力が生まれる)という利点もあります。そして、次に見るように電気料金の面でも有利になります。

力率と電気料金の関係

力率は、電気料金(とくに基本料金)にも関わります。多くの電力会社では、力率割引という制度があり、力率が良いと基本料金が安く、悪いと高くなる仕組みになっています。

一般的な目安として、力率85%が基準です。これより力率が良ければ、1%上がるごとに基本料金が割引され、悪ければ1%下がるごとに割増されます。工場やビルのように電気を多く使う建物では、この差が年間で大きな金額になることもあります。だから、進相コンデンサで力率を改善して、基本料金を抑える取り組みが行われるのです。力率改善は、省エネと電気代の両面で効く、費用対効果の高い対策だといえます。

力率改善で気をつけたいこと

力率改善は有効な対策ですが、やみくもにコンデンサを付ければよいわけではありません。設計や運用でいくつか注意点があります。

  • 入れすぎに注意:コンデンサを入れすぎると、今度は「進み」の無効電力が増えすぎて、かえって力率が悪くなったり、電圧が上がりすぎたりします。負荷に合った容量を選ぶことが大切です。
  • 負荷に応じて切り替える:工場などは、時間帯で使う電気の量が変わります。コンデンサを何段かに分け、負荷に合わせて自動で入り切りする方式(自動力率調整)が使われます。
  • インバーターとの相性:動力の記事で触れたように、インバーターを使う回路では、モーターに直接コンデンサをつながないなどの配慮が必要です。組み合わせ方に注意します。
  • 点検と更新:コンデンサは消耗する部品です。劣化すると効果が下がるため、定期点検と、寿命に応じた更新が欠かせません。

力率改善は、ただコンデンサを置くだけでなく、設備の使い方に合わせて適切に計画・維持してこそ効果を発揮します。省エネや電気代削減の観点から、電気設備設計で重視されるポイントの一つです。

まとめ:力率と力率改善の基礎を押さえる

  • 力率は、送った電気(皮相電力)のうち、実際に役立った電気(有効電力)の割合。
  • 電力は有効(W)・無効(var)・皮相(VA)の3つ。ビールのビール・泡・全体で覚える。
  • モーターなどの誘導性負荷が無効電力を生み、力率を下げる。
  • 進相コンデンサで無効電力を打ち消すと力率が改善。省エネ・機器保護・配電ロス減に効く。
  • 力率85%が料金の基準。良ければ基本料金が割引、悪ければ割増になる。
  • コンデンサは入れすぎ注意。負荷に合わせた容量・自動調整・定期点検が大切。

おさらいクイズ

この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。

  1. 力率が表すものはどれ?

    • 電気の色
    • 送った電気のうち、どれだけが役に立ったかの割合
    • 電線の太さ

    正解は2番目。数字が高いほど電気を無駄なく使えています。

  2. 力率を改善するのに使う機器は?

    • 進相コンデンサ
    • 変圧器
    • 蓄電池

    正解は進相コンデンサ。増えすぎた無効電力を打ち消して、ちょうどよい状態に近づけます。

  3. 力率改善がとくに重要なのはどれ?

    • 一般家庭
    • 街灯
    • モーターを多く使う工場や大きな空調のあるビル

    正解は3番目。主に事業用の高圧受電の建物で取り組まれます。

よくある質問

力率が悪いと何が困るのですか

実際の仕事は少ないのに、送る側は大きな電気を扱う必要があり、無駄が生じます。電線や変圧器に余分な電流が流れてロスが増え、電気料金の割増にもつながります。設備の効率が下がる、と考えるとよいでしょう。

無効電力は完全になくせないのですか

なくせません。モーターが回るには、磁界をつくるための無効電力がどうしても必要だからです。力率改善は、無効電力をゼロにするのではなく、増えすぎた分をコンデンサで打ち消して、ちょうどよい状態に近づける取り組みです。

力率改善はどんな建物で必要ですか

モーターを多く使う工場や、大きな空調設備のあるビルなど、電気を多く使う建物でとくに重要です。家庭では力率が問題になることは少なく、主に事業用の高圧受電の建物で取り組まれます。逆にいえば、高圧受電の建物では、力率改善は当たり前に検討すべき基本の対策だといえます。

力率を良くすると電気代は下がりますか

基本料金の面で有利になります。多くの電力会社では、力率85%を基準に、良ければ割引、悪ければ割増となります。電気を多く使う建物ほど効果が大きく、進相コンデンサの導入費用を上回る節約になることもあります。