世界には、誰もが名前を知る有名建築があります。でもその裏側には、「えっ、そうだったの!?」と驚くようなエピソードが隠れているもの。工期や予算、設計者のドラマ。建物をつくる仕事に携わる立場だからこそ、思わず語りたくなるウラ話を6つ集めました。旅先で、雑談で、ちょっと披露したくなる小ネタばかりです。

① サグラダ・ファミリア:144年目、ついに“世界一高い教会”へ

スペイン・バルセロナの世界遺産、サグラダ・ファミリア。1882年の着工以来、140年以上も“未完”のまま建設が続いてきたことで知られます。その象徴的な出来事が、2026年に起きました。中心にそびえる最も高い塔「イエス・キリストの塔」(高さ172.5m)が完成し、世界でいちばん高い教会となったのです。

この完成のミサが行われた2026年6月10日は、設計者アントニ・ガウディの没後ちょうど100年にあたる記念の日でした。着工からはなんと144年。それでも全体の完成にはまだ届かず、最後の「栄光のファサード」などの工事が続き、全体の完成は2030年代半ばとも言われています。“世界一時間のかかる建築”は、いまも進化を続けています。ちなみに、これほど長く工事が続いてきた背景には、建設費の多くを世界中からの寄付と拝観料でまかなってきたという事情もあります。人々の思いが少しずつ石を積み上げてきた。そんな聖堂ならではの物語が、この建築には宿っているのです。

アッシュくんメモ:ふつうの建物は数か月〜数年で完成するのに、サグラダ・ファミリアは140年超え! しかも設計者ガウディは途中で亡くなっているんだ。何世代もの職人が意志をつないで一つの建物をつくる。考えるだけでロマンがあるよね。

② エンパイアステートビル:たった1年で建った“空っぽのビル”

ニューヨークの摩天楼の代名詞、エンパイアステートビル。実はこの巨大なビル、1930年の着工からわずか1年45日という驚異的な速さで完成しました(1931年5月1日竣工)。当時の技術で、この高さをこのスピードで。今の目で見ても信じがたい記録です。

ところが、完成のタイミングが最悪でした。時はまさに世界恐慌のさなか。オフィスの多くは1940年代まで空室のままで、「エンプティ・ステート・ビルディング(=空っぽのビル)」と皮肉られたほどです。それでもこのビルは1972年まで約40年間、世界一高いビルの座を守り続けました。逆境からの大逆転劇です。建設当時は、近くに建つクライスラービルと“どちらが世界一高いか”を競い合ったことでも知られ、二つの摩天楼の高さ争いは、この時代のニューヨークを象徴する出来事となりました。

③ エッフェル塔:本当は20年で解体されるはずだった

パリのシンボル、エッフェル塔。実はこれ、1889年のパリ万博のために建てられた“仮設”に近い存在で、当初は20年後(1909年)に解体される予定でした。建設当時は、その斬新すぎる姿に多くの芸術家から猛反対を受けたともいわれます。

解体を免れた立役者は、意外にも「無線通信」でした。塔の高さを活かして無線電信の施設が置かれ、軍事通信にも活用されるなど、通信技術の発展とともに“実用の塔”として価値を高めたのです。今や世界一有名な塔も、あやうく姿を消していたかもしれない。そう思うと、少し見え方が変わります。

④ シドニー・オペラハウス:予算14倍、設計者は完成を見ずに去った

貝殻のような屋根が美しい、オーストラリアの世界遺産シドニー・オペラハウス。この独創的な形は、設計者ヨーン・ウツソンの才能の結晶ですが、その建設は波乱の連続でした。

1959年に着工したものの、前例のない複雑な形状の構造をどう実現するかで難航し、竣工は1973年までずれ込みます。総工費は当初予定の約700万ドルから、なんと1億200万ドルへ。14倍以上にふくらみました。費用超過をめぐる対立の末、ウツソンは1966年に設計者の地位を辞任し、自らの代表作の完成を現地で見届けることはありませんでした。名建築の陰には、こうした苦い物語もあるのです。それでもこの建物は世界中から愛され、2007年には20世紀の建築として異例の早さで世界文化遺産に登録されました。後年にはウツソンと関係者の和解も進み、改修には彼の思想が反映されたといわれます。困難を越えて、名建築はやがて正当に評価されたのです。

⑤ 自由の女神:中身をつくったのは“あのエッフェル”

アメリカ・ニューヨークの自由の女神像。フランスからアメリカへ贈られたこの像の“中身”を設計したのが、なんとエッフェル塔で有名なギュスターヴ・エッフェルだと知っていましたか?

像の内部は、外から見える銅の外皮を支えるために、エッフェル塔と同じような鋼鉄の骨組みでできています。海辺の強い風に耐えながら、銅の板が自由に伸縮できるようにする。その巧みな構造設計こそ、エッフェルの真骨頂。華やかな見た目の裏に、優れた“構造の知恵”が隠れている好例です。

アッシュくんメモ:建物や像って、見た目の“デザイン”だけじゃ立っていられないんだ。それを支える“構造”があってこそ。自由の女神は、まさに「見えない骨組みが主役」を教えてくれる存在だね。

⑥ ブルジュ・ハリファ:828m、人類史上いちばん高い建物

最後は現代の記録から。アラブ首長国連邦・ドバイにそびえる「ブルジュ・ハリファ」は、高さ828メートルを誇る、現在世界一高いビルです。地上200階を超えるその高さは、東京タワー(333m)を2つ積んでもまだ届きません。

これほどの超高層を実現するには、強風や自重、地震に耐える高度な構造技術が不可欠です。砂漠の真ん中に人類の技術の粋を集めて建つブルジュ・ハリファは、「人はどこまで高く建てられるのか」という、建築の飽くなき挑戦の到達点といえるでしょう。上層階では、地上と最上部で気温や気圧、風の強さまで変わるといわれ、超高層ならではの課題を、設備や構造の技術が一つひとつ解決しています。高さの記録は、そのまま技術の進歩の記録でもあるのです。

まとめ

144年かけて世界一高い教会になったサグラダ・ファミリア、1年で建った“空っぽのビル”、解体を免れたエッフェル塔、予算が14倍にふくらんだオペラハウス、エッフェルが骨組みをつくった自由の女神、そして人類最高峰のブルジュ・ハリファ。有名建築のウラ話には、時代の事情や人々のドラマ、そして「どう建てるか」という技術の物語が詰まっています。次に写真や旅行でこれらの建物に出会ったら、ぜひウラ話も思い出してみてください。建築が、ぐっと身近で面白いものに感じられるはずです。

よくある質問

サグラダ・ファミリアは、もう完成したのですか?

2026年に最も高い「イエス・キリストの塔」が完成し、世界一高い教会になりましたが、聖堂全体はまだ完成していません。最後の「栄光のファサード」などの工事が続き、全体の完成は2030年代半ばとも言われています。

エンパイアステートビルは、なぜそんなに速く建てられたのですか?

徹底した工程の計画と分業、部材の規格化などにより、無駄なく作業を進めたことが大きな要因とされます。世界恐慌で多くの働き手を集めやすかったことも、スピード建設を後押ししました。

エッフェル塔は、今も無線に使われているのですか?

解体を免れる決め手となったのは無線通信への活用でしたが、現在もテレビ・ラジオの電波塔としてアンテナが設置され、通信の役割を担い続けています。観光名所であると同時に、実用の塔でもあるのです。

自由の女神の内部には入れるのですか?

時期や状況により制限はありますが、内部の見学が可能で、エッフェルが手がけた鋼鉄の骨組みを間近に見ることができます。見た目を支える“構造”を体感できる貴重な場所です。

ブルジュ・ハリファより高い建物は、これから建ちますか?

世界各地でさらに高い超高層の計画が語られています。技術の進歩とともに、「世界一高い建物」の記録は今後も塗り替えられていく可能性があります。

日本にも“世界一”だった建築はありますか?

あります。東京タワー(333m)は、完成当時、自立式の鉄塔として世界一の高さでした。現在は東京スカイツリー(634m)が電波塔として世界有数の高さを誇ります。日本の建築も、高さの歴史にしっかり名を刻んでいます。地震の多い日本で、これほどの高さを安全に建てる技術もまた、世界に誇れる知恵のひとつです。