「◯月◯日、電気設備点検のため停電します」。マンションの掲示板やオフィスの回覧で、こんなお知らせを見たことはありませんか。数時間とはいえ、電気が使えないのは不便です。なぜわざわざ止めてまで点検するのでしょうか。

今回はアッシュくんが、電気にくわしいのりめぇる先生に、停電を伴う点検の意味を教わります。あの日が「面倒な日」から「守られている日」に見えてくるはずです。

電気を止めないと調べられないものがある

アッシュくん

のりめぇる先生、点検なら電気をつけたままでもできそうなのに、どうして止めるの?

のりめぇる先生

止めないとできない検査があるんだ。代表が絶縁の状態を調べる測定だね。

電線は導体のまわりを絶縁物で覆っている。この覆いが年月とともに劣化すると、電気が漏れやすくなる。漏電だ。ところが絶縁がどれくらい健全かを測るには、その回路に電気が流れていない状態が必要になる。通電したままでは正しい値が出ないんだよ。

それに、電気が生きたままでは触れない部分が多い。高圧の機器の中を開けて清掃したり、接続部の緩みを締め直したり、保護装置がきちんと働くかを試験したり。どれも安全のために停電が前提になる作業だ。

つまり停電は点検の副作用じゃなくて、点検の条件なんだ。あの数時間は、次の一年を安全に過ごすための時間なんだよ。

アッシュくん

止めるのが目的じゃなくて、止めないと調べられないんだね。健康診断でおなかを空かせて行くのと似てるかも。

対象になるのは「高圧で受電している建物」

この点検が行われるのは、電力会社から高圧で電気を受け取っている建物です。一定規模以上のマンション、オフィスビル、商業施設、工場、学校などが該当します。

  • 目印はキュービクル:敷地や屋上に置かれた金属の箱が受変電設備です。しくみはキュービクル(高圧受電設備)とはで解説しています
  • 自家用電気工作物という扱い:こうした設備を持つ建物は、法令にもとづいて保安の体制を定め、有資格者の監督のもとで維持管理を行う義務があります
  • 一般の戸建て住宅は対象外:低圧で受電しているため、この形の点検はありません

誰がどう管理しているかという体制の話は電気の保安管理と電気主任技術者でくわしく解説しています。

点検には2種類のリズムがある

停電を伴わない点検停電を伴う点検
頻度の目安月ごとなど短い周期年に一度程度
電気使えたまま止める
主な内容目視の確認、計器の読み取り、異音やにおいの確認、温度の確認絶縁の測定、保護装置の試験、清掃、接続部の増し締め
目的日常の異常の早期発見踏み込んだ健全性の確認

頻度は建物ごとに定めた保安のきまりによって決まるため、一律ではありません。ただ多くの建物で「日常的な巡回の点検」と「年に一度の停電を伴う点検」を組み合わせる形が取られています。

アッシュくんメモ:ふだんの点検が「毎日の体調チェック」、停電点検が「年に一度の人間ドック」。どっちも必要だけど、深く調べるほうは止まってもらう必要があるんだね。

停電の日に何が止まるか

当日に困らないよう、影響を受けるものを整理しておきましょう。

  1. 照明とコンセント:当然ながら使えません。日中でも窓のない廊下や階段は暗くなります
  2. エレベーター:停止します。閉じ込めを防ぐため、事前に運転を止める措置がとられます。作業時間中の移動は階段になります
  3. 空調:止まります。夏や冬は室温の変化に備えが必要です
  4. 給水:ポンプで各階へ送っている建物では、水が出なくなることがあります。飲み水やトイレ用の水を用意しておくと安心です
  5. インターホンや自動ドア:止まる場合があります。出入りの方法が変わることがあるので、案内を確認してください
  6. 冷蔵庫:数時間なら扉を開けなければ保冷は保たれます。開け閉めを控えるのがいちばんの対策です

冷蔵庫が扉を開けなければ持つ理由は冷蔵庫の野菜室はなぜ真ん中や下でも触れています。冷凍室がぎっしり詰まっていると、凍った食品が保冷剤の役目を果たしてくれます。

点検で見つかるものは何か

アッシュくん

毎年やって、実際に何か見つかるものなの? 何もなければ無駄じゃない?

のりめぇる先生

「何もなかった」ことを確かめるのが点検の値打ちなんだ。そのうえで実際に見つかるものもある。

たとえば絶縁の値が年々下がってきている回路。すぐ事故になるわけではないけれど、傾向が見えれば計画的に手を打てる。接続部の緩みもそうだ。緩んだ接点は発熱して、放っておけば焼損や火災につながる。締め直しは地味だけれど、いちばん効く予防だよ。

それから小動物や虫の侵入の跡、ほこりの堆積、機器の変色。こういう小さなサインは、通電中の巡回では見つけにくい。扉を開けて中まで見られる停電点検だからこそ拾えるものなんだ。

設備は壊れてから直すと、費用も時間も何倍もかかる。しかも壊れるのは、たいてい建物がいちばん忙しいときだからね。

アッシュくん

次に停電のお知らせが来たら、ちょっと見る目が変わりそうだよ。「今年もありがとう」って気持ちで階段をのぼることにする。

のりめぇる先生

その気持ちが伝わると、点検する側もうれしいものだよ。電気設備は、うまく動いているときは誰にも気づかれない。事故が起きなかった一年には、誰も拍手をしない。それでも止まらないように点検を積み重ねる人たちがいる。あの数時間の不便は、見えない安全を確かめるために、みんなで少しずつ負担している時間なんだ。

まとめ:止めるからこそ調べられる

  • 停電点検は、電気を止めないと測れない絶縁の状態や、触れない機器の内部を調べるために行う
  • 対象は高圧で受電している建物。目印は敷地や屋上のキュービクル
  • 日常の巡回点検と、年に一度程度の停電を伴う点検を組み合わせるのが一般的
  • 当日は照明・エレベーター・空調・給水・自動ドアなどが止まる。冷蔵庫は開けないのが対策
  • 絶縁値の低下や接続部の緩みなど、事故になる前のサインを拾える
  • 「何もなかった」ことを確認できること自体が点検の価値

おさらいクイズ

のりめぇる先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。

  1. 点検で電気を止める理由は?

    • 電気代を節約するため
    • 作業員が休憩するため
    • 通電したままでは絶縁の測定ができず、機器の内部にも触れないから

    正解は3番。停電は点検の副作用ではなく条件です。絶縁の測定、保護装置の試験、清掃や増し締めはいずれも電気を止めて行います。

  2. 停電点検の対象になる建物は?

    • 高圧で受電している建物(キュービクルがある建物)
    • すべての戸建て住宅
    • 築10年以上のすべての建物

    正解は高圧受電の建物。一定規模以上のマンションやビル、工場などが該当し、低圧受電の一般住宅にはこの形の点検はありません。

  3. 停電の日、冷蔵庫への正しい対応は?

    • 扉を開けて熱を逃がす
    • 扉をできるだけ開けない
    • 電源プラグを抜いておく

    正解は開けないこと。数時間程度なら庫内の冷たさは保たれます。とくに冷凍室が詰まっていると、凍った食品が保冷剤の役目をします。

よくある質問

停電点検を断ることはできますか?

できません。高圧で受電する建物には法令にもとづく保安の義務があり、点検はその一部として行われます。日程の調整は管理者と相談できる場合がありますが、実施そのものを省くことはできません。安全を保つための決まりごとです。

在宅勤務の日に停電が重なったらどうすればいいですか?

お知らせは通常かなり前に掲示されるため、日程を確認して仕事の予定を調整するのが確実です。どうしても外せない場合は、外の場所で作業する、モバイル回線とバッテリーを用意するといった備えが必要になります。通信機器も止まるため、自宅の回線は使えないと考えておくのが安全です。

医療機器を使っています。どう備えればいいですか?

電源が必要な医療機器を使用している場合は、早めに管理者へ伝えてください。停電の時間帯や、代替の電源をどう確保するかを個別に相談する必要があります。機器の販売元やかかりつけの医療機関にも、停電時の対応を確認しておくと安心です。

点検が終わったのに一部の機器が動きません。

停電から復電すると、機器によっては設定が初期化されたり、手動での再起動が必要になったりします。時計の再設定、給湯器やエアコンの復帰操作、録画機器の確認などが代表例です。それでも直らない場合は管理者へ連絡してください。

点検の記録は見られますか?

点検の結果は報告書としてまとめられ、建物の管理者が保管しています。分譲マンションであれば管理組合が受け取っているため、総会資料などで確認できることがあります。絶縁の測定値の推移は、設備の状態を知る手がかりになるので、管理に関わる立場の方は目を通しておく価値があります。