段差を越えられずに困った経験、ベビーカーや大きな荷物で苦労した経験はありませんか。その「困った」をなくす設計は、実はみんなの暮らしを楽にしています。

この記事では、バリアフリーとユニバーサルデザインの違い、根拠となるバリアフリー法、移動やトイレのバリアフリーの具体例、ユニバーサルデザインの7原則、そして設計での実務ポイントを、初めての方にも分かるように解説します。

バリアフリーとユニバーサルデザインとは

どちらもすべての人が使いやすい環境をめざす考え方ですが、出発点が少し違います。バリアフリーは、高齢者や障害のある人にとっての障壁(バリア)を取り除くことに重点を置きます。段差をなくす、手すりを付ける、といった対応が代表です。

一方、ユニバーサルデザインは、はじめから、年齢や障害の有無にかかわらず、できるだけ多くの人が使えるように設計するという考え方です。あとから障壁を取り除くのではなく、最初から誰もが使えるものをつくる、という発想です。バリアフリーが「取り除く」なら、ユニバーサルデザインは「はじめから含める」と考えると分かりやすいでしょう。

比べる点バリアフリーユニバーサルデザイン
発想障壁を取り除くはじめから誰もが使えるようにする
主な対象高齢者・障害のある人年齢・障害を問わずすべての人
タイミングあとから対応することが多い計画の最初から織り込む

アッシュくんメモ:バリアフリーは「後から段差をなくす」、ユニバーサルデザインは「最初から段差をつくらない」。ゴールは同じでも、考え始めるタイミングが違うんだ。

バリアフリー法と基準

建物のバリアフリーは、通称バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)にもとづいて進められます。この法律には、建築物が満たすべき建築物移動等円滑化基準が定められています。

とくに、不特定多数の人や、高齢者・障害のある人が利用する建物(特別特定建築物)は、一定の規模以上になると、この基準への適合が義務づけられます。さらに、自治体によっては独自の条例で、対象や基準を上乗せしていることもあります。そのため、設計では国の法律だけでなく、その地域の条例まで確認することが欠かせません。

移動のバリアフリー

建物の中を安全に移動できることは、バリアフリーの基本です。水平方向(同じ階)と垂直方向(階の移動)の両方に配慮します。

  • 段差の解消:出入口や通路の段差をなくし、必要な場所にはスロープを設けます。スロープの勾配は、一般に1/12以下など、緩やかにすることが求められます。
  • スロープの手すり:スロープや階段には、握りやすい手すりを設けます。
  • 十分な幅:廊下や出入口は、車いすやベビーカーが通れる幅を確保します。
  • 垂直移動:階をまたぐ移動には、車いす対応のエレベーターなどを設けます。
  • 視覚への配慮:視覚障害のある人のために、誘導ブロック(点字ブロック)や分かりやすい表示を設けます。

これらは、車いすの利用者だけでなく、高齢者やけがをした人、荷物を持った人、ベビーカーの利用者など、多くの人にとっての使いやすさにつながります。特別な設備というより、みんなが少しずつ楽になる工夫の積み重ねだと考えるとよいでしょう。

トイレ・設備のバリアフリー

トイレは、バリアフリーがとくに重視される場所です。車いすで入って向きを変えられる広さ、立ち座りを助ける手すり、さまざまな人に対応する設備を備えた多機能トイレ(だれでもトイレ)を設けます。

多機能トイレには、車いすが回転できるスペース、手すり、そしてオストメイト(人工肛門・人工膀胱の利用者)に対応した設備などが求められることがあります。また、便器や洗面台の高さ、扉の開けやすさ、操作しやすいスイッチの位置なども、使いやすさを左右します。トイレに限らず、受付カウンターの高さや、握りやすいドアハンドルなど、日常の細部への配慮が、建物全体の使いやすさを決めます。

ユニバーサルデザインの7原則

ユニバーサルデザインには、指針となる7つの原則があります。設計を考えるときのチェックポイントとして役立ちます。

原則内容
1 公平性だれでも公平に使える
2 自由度使い方を選べる柔軟さがある
3 単純性使い方が簡単で直感的に分かる
4 分かりやすさ必要な情報がすぐ伝わる
5 安全性間違えても危険につながりにくい
6 省力性少ない力で楽に使える
7 空間の確保近づいて使える十分な大きさと広さ

これらは、建物だけでなく、製品や案内表示など、あらゆるデザインに通じる考え方です。7つすべてを完璧に満たすのは難しくても、これらを意識することで、より多くの人にとって使いやすい設計に近づけます。

だれもが恩恵を受ける(カーブカット効果)

バリアフリーやユニバーサルデザインは「特定の人のための配慮」と思われがちですが、実際には多くの人の役に立ちます。これを表す言葉に「カーブカット効果」があります。

カーブカットとは、歩道の縁石を車いす用に切り下げた部分のことです。もともとは車いすの利用者のための工夫でしたが、結果としてベビーカーやキャリーバッグを引く人、自転車、台車を押す人など、実に多くの人がその恩恵を受けています。段差の解消や分かりやすい表示、握りやすい手すりも同じで、誰かのための配慮が、いつのまにかみんなの使いやすさになっているのです。自分もいつかは高齢になり、けがや子育ての時期も訪れます。バリアフリーやユニバーサルデザインは、めぐりめぐって自分自身を助ける設計だといえます。

設計・実務ポイント

バリアフリー・ユニバーサルデザインを計画するときは、次の点に気を配ります。

  • 適合義務の確認:建物の用途と規模から、バリアフリー法の基準適合が義務になるかを確認します。
  • 条例の上乗せ:国の基準に加え、その自治体の条例による対象や基準の上乗せを確認します。
  • 計画段階から織り込む:あとから直すより、最初の計画に含めるほうが、無理なく美しく実現できます。
  • 多様な利用者を想定する:車いすだけでなく、視覚・聴覚、高齢者、子ども連れなど、幅広い利用者を思い描きます。
  • 設備との連携:エレベーターやトイレ、照明、案内表示など、各設備と一体で計画します。

バリアフリーとユニバーサルデザインは、特別な誰かのためだけの配慮ではありません。年をとれば誰もが恩恵を受け、けがや子育ての時期にも助けになります。誰もが使いやすい建物をめざすことは、結果として、すべての人にとって快適な空間づくりにつながります。設計者にとっても、多様な人の視点で建物を見直す姿勢は、質の高い設計を支える土台になります。

まとめ:バリアフリーとユニバーサルデザインの基礎

  • バリアフリーは障壁を取り除く、ユニバーサルデザインははじめから誰もが使えるようにする考え方。
  • 建物のバリアフリーはバリアフリー法と建築物移動等円滑化基準にもとづく。
  • 特別特定建築物は一定規模以上で基準適合が義務。自治体の条例で上乗せもある。
  • 移動では段差解消・スロープ・十分な幅・エレベーター・誘導ブロックなどに配慮する。
  • 多機能トイレや操作しやすい設備など、細部への配慮が使いやすさを決める。
  • ユニバーサルデザインの7原則を、設計のチェックポイントとして活用できる。

おさらいクイズ

この記事のポイント、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。

  1. 「はじめから誰もが使えるように設計する」考え方は?

    • バリアフリー
    • ユニバーサルデザイン

    正解はユニバーサルデザイン。バリアフリーは障壁を後から取り除く発想です。

  2. スロープの勾配は一般にどのくらい以下?

    • 1/2以下
    • 1/12以下

    正解は1/12以下。急すぎると車いすで危険なため、緩やかにします。

  3. 車いす用に縁石を下げた工夫が、みんなの役に立つ効果は?

    • カーブカット効果
    • ドップラー効果

    正解はカーブカット効果。ベビーカーや台車など多くの人が恩恵を受けます。

よくある質問

バリアフリーとユニバーサルデザインの違いは何ですか

バリアフリーは、高齢者や障害のある人にとっての障壁を取り除くことに重点を置きます。ユニバーサルデザインは、はじめから年齢や障害の有無にかかわらず、できるだけ多くの人が使えるように設計する考え方です。取り除くか、最初から含めるか、が大きな違いです。

すべての建物にバリアフリーの義務がありますか

いいえ。義務がかかるのは、不特定多数や高齢者・障害のある人が使う特別特定建築物が、一定の規模以上になる場合などです。ただし、義務の有無にかかわらず、使いやすい建物をめざす配慮は広く推奨されます。地域の条例で対象が広げられていることもあります。

スロープの勾配に決まりはありますか

あります。急なスロープは車いすでの通行が難しく危険なため、緩やかにすることが求められ、一般に1/12以下などの基準があります。屋外や状況によって求められる勾配は異なり、条例で定められることもあるため、設計時に確認します。

ユニバーサルデザインは建物だけの考え方ですか

いいえ。ユニバーサルデザインは、建物にとどまらず、製品や案内表示、サービスなど、あらゆるデザインに通じる考え方です。7原則も、幅広い分野で使いやすさを考える指針として活用されています。