私たちがスマートフォンで動画を見たり、クラウドにファイルを保存したりするとき、その先には必ずデータセンターがあります。窓のない大きな建物の中で、何千台ものサーバーが24時間動き続けています。
この建物の電気設備は、オフィスビルや商業施設とはまったく別の考え方で作られています。今回はアッシュくんが、電気にくわしいのりめぇる先生に、データセンターの電気設備が何を目指して設計されているのかを教わります。
結論から言うと、データセンターの電気設備が一般のビルと違うのは、「絶対に止められない」ことと「消費電力と発熱が桁違いに大きい」ことの2点です。そのため受電から機器の手前までのすべてを二重に用意し、停電の一瞬を無停電電源装置で、長い停電を非常用発電機でつなぎます。そして機器そのものと同じくらいの電力を、機器を冷やすために使う設計になります。
なぜ「止められない」が最優先なのか
のりめぇる先生、データセンターの電気って、普通のビルの電気と何が違うの? サーバーがたくさんあるだけじゃないの?
いちばんの違いは、停電が許されないことなんだ。オフィスビルなら、年に一度の点検で数時間止めても仕事を調整すれば済む。でもデータセンターで電気が一瞬でも切れたら、中で動いているサービスが止まり、世の中のあちこちに影響が出る。
だから設計の出発点が「万一止まったらどうするか」ではなく「どうやっても止めない」になる。電気が入ってくる引込から、変圧器、配電盤、サーバーの手前まで、すべての経路を二重に用意する。片方が壊れても、点検で片方を止めても、もう片方で動き続けられるようにするんだ。
この「二重化」の考え方は、一般のビルでは非常用の一部にしか使わない。データセンターでは、建物ぜんぶがその思想で作られている。ここが根本的な違いだよ。
「止まったときの備え」じゃなくて「止めない設計」なんだね。発想の順番が逆なんだ。
一般のビルで年に一度電気を止めて行う点検についてはビルの停電点検はなぜ必要で解説しています。データセンターでは、この点検さえ止めずに行える構成が求められます。
停電をどうやって乗り切るのか
電力会社からの供給が途切れたとき、データセンターは2つの装置を段階的に使って電気を守ります。
| 無停電電源装置(UPS) | 非常用発電機 | |
|---|---|---|
| 役割 | 停電の瞬間から数分間、電池で電気を供給し続ける | 起動後、燃料が続くかぎり長時間の電気を供給する |
| 反応の速さ | 途切れなく即座に切り替わる | 起動して安定するまでに時間がかかる |
| 持続時間 | 数分から十数分程度 | 燃料の備蓄量による(数十時間以上を確保することが多い) |
| 弱点 | 長時間はもたない | 起動の一瞬に間に合わない |
つまり2つは補い合う関係です。停電の瞬間は無停電電源装置が電気を支え、その間に発電機が起動して安定し、発電機に引き継ぐ。この流れが自動で、しかも確実に働くことを、定期的な試験で確かめ続けます。非常用の電源の基本的な考え方は非常電源設備の基礎入門で解説しています。
アッシュくんメモ:無停電電源装置は「一瞬をつなぐ短距離走者」、発電機は「長く走る長距離走者」。バトンをきれいに渡せるかどうかが命なんだね。
消費電力と発熱はどれくらい大きいのか
サーバーってそんなに電気を使うの? パソコンが並んでるだけに見えるけど。
1台1台は小さくても、ラックにびっしり詰めて何千台も動かすからね。同じ床面積のオフィスビルと比べると、使う電力は桁が違う。だから電力会社からは高圧、大規模なものでは特別高圧という、ふつうのビルより高い電圧で受電する。
そして電気を使った分は、ほぼすべて熱になる。サーバーは電気を熱に変える機械だと言ってもいい。この熱を取り除かないと、機器はすぐに温度が上がって止まってしまう。
だから冷却がもう一つの主役になる。サーバーが使う電力と同じくらい、あるいはそれに近い電力を、冷やすために使うことになる。電気設備と空調設備が、建物の中でこれほど密接に結びついている用途は他にないんだ。
高い電圧で受電する設備のしくみはキュービクル(高圧受電設備)とは、大きな熱を処理する空調の熱源は空調熱源機器の基礎入門でくわしく解説しています。
効率をどう測るのか
冷却に電力を使うのは避けられませんが、どれだけ効率よく使えているかを測る指標があります。施設全体で使う電力を、サーバーなどの機器そのものが使う電力で割った値です。
- 1.0が理想:機器以外の電力(冷却・照明・変換の損失)がゼロという意味で、現実にはあり得ません
- 実際の施設:1.2から1.5程度が多いと言われます。1.5なら、機器の電力の半分をさらに冷却などに使っている計算です
- 下げる工夫:外の冷たい空気を取り入れる、冷たい空気と熱い空気の通り道を分ける、機器を液体で直接冷やす、といった方法があります
寒冷地にデータセンターが建てられることがあるのは、外気を冷却に使えて、この値を下げやすいためです。建物のエネルギーを管理する仕組みはBEMSの基礎入門で解説しています。
電気以外の設備も「止めない」が前提
- 床の強さ:機器を積んだラックは非常に重く、一般のオフィスより床を強く作ります。配線や冷気を通すために、床を二重にする構成も使われます
- 消火:水をまくと機器が壊れるため、ガスで消火する方式が用いられます。消火設備の種類は消火設備の基礎入門をどうぞ
- 入退室の管理:誰がどこに入れるかを厳密に管理します。しくみは防犯・入退室管理設備の基礎入門で解説しています
- 保安の体制:大きな電気設備を持つため、電気主任技術者による保安の体制が欠かせません。考え方は電気の保安管理と電気主任技術者をどうぞ
設備設計の分野でデータセンターの需要が伸びている背景は電気設備設計の将来性と需要で触れています。この建物は、電気設備設計の技術がもっとも集中して問われる用途のひとつです。
動画を見るたびに、どこかで何千台のサーバーが動いて、それを止めないために二重の電気と冷却が働いてるんだね。当たり前の裏側がすごすぎる。
その「当たり前の裏側」を作るのが設備設計の仕事なんだ。データセンターは極端な例だけれど、病院も、駅も、学校も、止まらないことを誰かが設計している。使う人が何も気にせずにいられることこそ、設備がうまく働いている証拠なんだよ。
まとめ:二重化と冷却が設計の柱
- データセンターの電気設備は「止められない」「消費電力と発熱が桁違い」の2点で一般のビルと異なる
- 受電から機器の手前まで経路を二重化し、片方が止まっても動き続けられるようにする
- 停電の瞬間は無停電電源装置、長時間は非常用発電機がつなぐ。引き継ぎの確実さを試験で確かめ続ける
- 機器の電気はほぼ熱になるため、冷却に機器と同じくらいの電力を使う
- 効率は施設全体の電力を機器の電力で割った値で測り、1.0に近いほどよい
- 床の強さ、ガス消火、入退室管理、保安体制も「止めない」前提で設計される
おさらいクイズ
のりめぇる先生の話、覚えられたかな? 直感で選んでみてね。
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データセンターの電気設備の設計で最優先されることは?
- 電気を止めないこと
- 建物を美しく見せること
- 電気代を最も安くすること
正解は止めないこと。一瞬の停電でも広い範囲に影響が出るため、受電から機器の手前まで二重化する設計が基本になります。
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停電の瞬間に電気を支えるのは?
- 非常用発電機
- 太陽光発電
- 無停電電源装置(電池)
正解は無停電電源装置。途切れなく即座に切り替わり、数分間電気を支えます。その間に非常用発電機が起動して長時間の供給を引き継ぎます。
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データセンターで冷却に多くの電力を使う理由は?
- 建物が大きいから
- 機器が使った電気がほぼすべて熱になり、取り除かないと止まるから
- 職員が多いから
正解は2番。サーバーは電気を熱に変える機械と言えるほど発熱します。冷却は電気設備と並ぶもう一つの主役です。
よくある質問
データセンターの電気設備の設計は、ビルの設計と別の資格が必要ですか?
資格そのものは同じ体系ですが、求められる経験と知識の深さが違います。二重化の構成、大容量の受変電、無停電電源装置と発電機の連携、冷却との一体設計といった専門性が問われます。一般のビルで基礎を積んだ技術者が、経験を重ねて携わる領域です。
なぜ窓がないのですか?
日射による熱を入れないため、外部からの侵入を防ぐため、そして室内の温度と気流を厳密に管理するためです。人が長時間過ごす場所ではないので、採光の必要性も低くなります。建物の性能を最優先した結果の形です。
二重化はどこまで徹底するのですか?
施設の目的によって段階があります。一部だけ予備を持たせる構成から、すべての系統を完全に2組用意する構成まで幅があり、求められる稼働率と費用のバランスで決めます。どの段階を目指すかが、設計の最初の大きな判断になります。
電気主任技術者は常駐しているのですか?
大規模な電気設備を持つ施設では、保安の責任者として電気主任技術者を置く必要があり、規模によっては常駐の体制が組まれます。日常の巡視、定期の点検、異常時の対応を担う重要な役割です。この分野の技術者の需要が高いのは、データセンターの増加も背景のひとつです。
一般のビルの設計に活かせる考え方はありますか?
あります。重要な設備を二重化する、停電時にどこまで機能を維持するかを最初に決める、発熱を見込んで空調を計画する。こうした考え方は、病院や放送局、工場の管制室など、止めたくない設備を持つ建物にそのまま応用できます。データセンターは、設備設計の考え方を極限まで突き詰めた教科書のような建物です。
